君に心を奪われて



水曜日。体育祭本番です。


応援席の方に行くと、長いハチマキをした翼が居た。ヤバい、翼がすごくカッコいい。


「おはよう、花菜」


「おはよう、翼」


椅子を置く私に気付いて挨拶してくれた。すごく嬉しい。


ラジオ体操と一斉応援をした後、私達二年生は急いで競技の準備をする。


二年生学年種目は、棒倒し。騎馬戦のように騎手を運んで、騎手が棒に登るという競技。騎手が棒から落下しないか、すごく不安な競技だ。


私は一番前の土台。騎手の体重が一番掛かるところなので、本当に最悪だ。


私達は騎手を担いで必死に走った。急いで下ろして棒を支えた。そして、全力疾走で戻る。それをまたもう一回繰り返す。


「疲れた……」


そんな本音が漏れてしまうほど疲れてしまった。手は土だらけになっていた。


「頑張った頑張った白軍!」


戻ると、軍のみんなが笑顔で迎えてくれた。


「花菜、お疲れ!」


笑顔で私の肩をポンポンと叩く翼に私は微笑んだ。


体育祭が終われば私達は関わることはもうないのだろうか。もっともっと、体育祭が続けばいいのに……。


翼と一緒が良いって思ってしまうけれど、翼は受験で忙しいのだ。もしもまだ“友達”の関係が続いていたとしても、会うことは少なくなるだろう。


「“天気雨の体育祭”、行くぞ!」


「おー!」


歌って叫んで踊る彼をこんなにも好きになってしまうなんて思ってなかった。


もっと近付いてしまったら私は戻れなくなる。翼を知る以前の私に戻れなくなりそうで不安だ。


「辛くても、立ち上がれ白軍~♪」


君の歌声も君の姿もこんなに愛しい。私は重症だな。


私一人だけ君を好きになってるみたい。君は私を“友達“としか思ってないはずなのに。


「最強白軍!!」


「最強白軍!」


「行け!行け!行け!行け~♪」


風になびく君のハチマキも美しい。ずっと見て居たい。このまま、時が止まればいいのに。


団体女子綱引きが始まる。


翼と他の応援リーダーと二人で変なダンスと芸をしていた。それは……応援より漫才だよね?


笑い過ぎて綱引きが出来ない。翼、普通の応援をして……!


次は翼が一人でとある芸人みたいに叫んでいる。それはね、応援じゃなくてギャグだからね?


みんなが爆笑して綱引きどころじゃなかった。翼って、ある意味ヤバいヤツなんだろうね。私はそこも好きなんだけど。


「翼……」


「イェーイ!!」


叫んでいる翼にみんなが呆れていた。それも面白くて笑っている。楽しい。体育祭が楽しい。


先生達も黙れと言っているが、なかなか静まる様子がない翼達。呆れるなぁ。


「頑張った頑張った白軍!」


綱引きが終わると、笑顔で男子達が迎えてくれた。


「花菜、お疲れ」


私はそう言われたのが嬉しくて、ニッコリと微笑んだ。


綱引きの結果は残念ながら一勝も取ることも出来なかった。だけど、翼のおかげですごく楽しい綱引きになった。


「花菜、行ってくるね!」


「うん!」


笑顔で走って行く翼に私は笑顔で手を振った。風になびくハチマキが君をさらに美しくさせる。


やっぱり好きだなぁ、なんて思ってしまう。


最後のアンカーで走る君もカッコいいなって思う。


三年生の学級リレーが終わると、次は二年生の学級リレーになった。


バトンを受け取って、無心で走る。走っている時、本当に自分が走っているのかわからないぐらいにボケーとしていた。バトンを渡して、グラウンドの地面に座った。


「最強白軍!!」


「最強白軍!」


「行け!行け!行け!行け!行け~♪」


後ろで必死に声を出して踊る君は目が眩むほど太陽に乱反射しているかのように輝いていた。


リレーが終わって戻ると、もう休憩の時間になっていた。


「花菜、お疲れ。俺はアルバム撮影あるから、じゃあな」


「うん。じゃあね」


君とこうやって笑い合えるのも最後かもしれない。それを念頭に置きながら、私は体育祭に参加する。


君との時間がもっともっと増えますように……。



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