君に心を奪われて
早く家から出て、花菜の家へ向かう。早く君に会いたいから。
花菜の家の前に着くと、花菜も家から出て来た。俺を見て、花菜のお母さんは絶句していた。
他愛ない話を花菜としていると、周囲が不思議そうな目で見てくる。
朝から同級生に絡まれてかなり面倒だった。
「あの……話があります……」
花菜と別れて教室で空を眺めていると、同じクラスの田中さんが話し掛けてきた。
この流れは告白だろうか。俺は花菜がお気に入りなので無理だけど。
「告白?」
田中さんがビクッと肩を震わす。やっぱり、そうだったか。
「ごめん。俺には好きなヤツがいる」
田中さんは目に涙を滲ませながら、すぐに逃げて行った。
こんな俺が後輩を好きになるなんて思って無かったな。君がすごく愛しいよ。
「翼!おはよう!」
なぜか勝手に俺の彼女という設定になってる幼なじみの茜(あかね)が俺のところに来た。
やっぱり、別れを告げないとダメだ。俺は花菜一途になったんだからな。
「どうして、朝一緒に行かなかったの?」
たまに茜と行くこともあるのだが、俺らは極秘カップルという扱いになっているので、別れて教室に入ることが多い。
「茜……場所が悪いが、言っていいか?」
「何?好きって言ってくれるの?」
「……別れよう」
彼女は目を見開き、かなり驚いている様子だ。
「何で……」
「好きなヤツがいる。ごめん」
この言葉を言うのは本日二回目。好きなヤツというのは、花菜のことである。
「酷いよ!どうして!!」
「お前は妹みたいなもんだし、別にどうでもいい。俺はアイツと一緒に居たいんだ」
「アイツって誰よ!?」
茜は俺の肩を強く揺さぶる。うるさい。正直、気持ち悪い。
「黙れ……」
「何で!何でよ!!」
「うるせぇんだ!お前はどうだっていいんだよ!!」
俺は花菜にしか興味がない。もう妹同然の茜になんか興味なんて湧かない。
チャイムが鳴ると、そそくさと茜は自分の席に戻った。
「翼、どうしたんだよ。アイツと別れるって……」
後ろから小声で話し掛けてきたのは、俺の親友である彩人(あやと)だった。
「好きなヤツがいるんだ」
「はっ……?」
彩人はかなり驚いた顔をして俺をガン見する。
「いつもは無表情だけど、俺の前で太陽みたいな笑顔を見せてくれるんだぜ。マジ可愛いよ」
「……惚気話にしか聞こえねぇ」
彩人は呆れた顔で俺を見た。
花菜の笑顔はスゲー可愛いんだ。だからずっと、花菜と一緒に笑い合えたらなって思った。
昼休みに花菜の教室へ遊びに行ったら、サッカー部の後輩である駿に絡まれた。
花菜と駿は俺が来たことにかなり驚いたらしい。特に花菜は俺が来たことで絶句していた。
帰りも花菜と一緒に帰った。花菜の笑顔が可愛いな、とまた俺は惚れる。
秘密基地で勉強会をした。二人っきりってすごくドキドキするんだな。
この秘密基地は幼なじみの茜にすら教えてない。だって、俺専用の特別室だから。花菜なら許すけど。
帰り道。暗い夜道の中、君を自転車の後ろに乗せていた。不安でブレーキをいっぱい握り締めて、ゆっくり進んで行く。
「じゃあな、花菜」
手を振る彼女の笑顔にまた胸が高鳴った。