君に心を奪われて
理科の授業が終わると、廊下で翼と男子が戯れていた。翼が他の子と話しているのは見たことないから新鮮に感じる。
「翼、一緒に行こうぜ!」
「ヤダ!」
「どんだけ彼女と一緒に居たいんだよ?そこまで溺愛してんのか?」
「大好きだよ!彼女の太陽みたいな笑顔を好きなんだよ!」
翼がそう言って、男子達は明らかに引いていた。私も遠くから見て呆れていた。それでも、嬉しいことには変わりはない。
「お前……溺愛し過ぎ……」
「廊下でキスなんかしたらヤバいからやめた方がいいよ?彼女の気持ちも考えてあげなよ」
男子達の言葉を聞いて翼は少し考えているようだ。確かに、廊下でキスは止めてほしい。恥ずかしいから。
「そうだな。花菜が可哀想だな……」
翼がそう言った。納得したんだ。なぜかホッとした。
「俺らは先に行ってるから、彼女とお幸せに!」
男子達は去って行った。翼はこちらの方に向かってくる。
「花菜、お待たせ」
別に待ってはいないけど、まぁいいか。
「途中まで送るよ」
「教室ぐらいなら自分で……」
「やーだ!俺が花菜と居たいの!」
翼が急に抱きついて甘えてきたので私は少し戸惑う。そんなところも可愛いな。
「私が言うのもおかしいけど、翼は先輩だよね……?」
「えっへん!俺様は先輩である」
「急に先輩面しないでよ!さっきまでお子ちゃまみたいに甘えて来てたのに!」
「だってー花菜が大好きだもん」
「……時と場所を考えてほしいで……んっ!?」
急にキスをされて私は慌てる。恥ずかしいから止めて……!
「俺は花菜が大好きだよ」
それはもう十分分かったから、この唇を離してよ!みんなに見られて恥ずかしいんだって!
「お前ら……」
大川先生の怒りが混じった低音ボイスに翼はすぐ唇を離す。かなり怯えている感じだった。
「時と場所を考えろ!!」
「はっ、はい!」
それはさっき私も翼に言ったけど、素直に返事してくれなかったのに何で先生には……?
「早く教室に戻れ!」
「はいっ!」
私達は急いで別れて教室に戻った。
大川先生が居なかったらずっと離してもらえなかったんだろうな。
唇を離されてホッとしたけど、少し寂しい気持ちもあった。やっぱり、私は翼が大好きなんだね。
応援練習の時に遠くから見ていた貴方が私を溺愛してくれている。
あの雨の日から私達の未来は輝くものに変わっていたんだね。
だけど、翼と一緒に居るのは大きな覚悟が必要だった。