君に心を奪われて


私はしばらく翼と抱き締め合っていると、私の携帯が鳴った。きっと、お母さんからだろう。


「ごめんね」と翼に言って、私は電話に出た。


「もしもし?」


『花菜?もう帰りなさい』


お母さんの声が聞こえた。遅くて怒らせてしまったかもしれない。


『翼くんも受験勉強あるんだから、あまりベタベタしちゃダメよ?』


「いや……あっちから言ってくるんだよね……」


『翼くんが?そんな大胆な子だったのね。いいな、溺愛されるのって』


お母さんが羨ましそうにそんなこと言った。


確か、お母さんとお父さんはいつも一緒に遊んでたからいつの間にか結婚してたっていう感じだったらしい。


『さっきね、翼くんのお母さんから電話がかかってきたの』


「えっ!?」


『翼くんのお母さんが忙しいから一緒に居て欲しいみたい』


私が想像していたのと逆だった。むしろ、一緒に居て欲しいだとか、翼のお母さん優しいね。


『だから翼くんを連れて来てほしいの』


「えっ……?」


『分かった?じゃあ、切るね』


お母さんから電話を切られた。私は簡易ベッドに腰掛ける翼を見つめていた。


「翼……翼のお母さんが忙しいから私の家で預かるんだって。だから一緒に帰ろう?」


「……花菜と居れるの?」


「うん……」


「やったー!」


なぜか喜ぶ彼に私は戸惑った。だけど、すぐに理由は分かった。まだ翼と居れるからだよね?


「早く帰ろうよ?」


「うん!」


翼と手を繋いで、私の家へ向かった。ハイカラだった世界が暗闇に染まっていた。




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