君に心を奪われて


私が「ただいま」と玄関の扉を開けて言うと、お母さんが笑顔で迎えてくれた。


「花菜、翼くん、おかえり。丁度ご飯が出来たから手洗いしてきて」


「はーい」


お母さんと私のやり取りを羨ましそうに翼が眺めていたのは気のせいだったかな。


「花菜、お母さんと仲良いんだね」


「うん!そろそろお父さんも帰って来るよ」


「そうなんだ……」


暗そうな顔をして翼は手を洗っていた。そんなクールな顔も好きだけど、心配になってくる。


キッチンにあるダイニングテーブルには美味しそうな食事が並べられていた。翼が居るからお母さんが張り切って作ったかもしれない。


「ただいま。えー!?」


私のお父さんが帰ってきた。私のお父さんが驚いたのは、翼が居るからだと思う。


「えっ……花菜の彼氏さん?」


「はい……」


翼がお父さんに頭を下げた。お父さんも頭を下げた。


「お母さんから聞いてたけど、スゲーカッコいい彼氏だね。名前は?」


「加藤翼です」


「翼くんかぁ。よろしくね!」


「はい!」


お父さんがニコッと笑うと、翼も笑顔で返した。


お父さんが荷物をリビングのソファーに置いて、お母さんの隣に座った。


「いただきます!」


大好きな人と大好きな家族と一緒に食べるご飯はとても美味しかった。


だけど、翼はとても辛そうな顔をしていた。





< 33 / 80 >

この作品をシェア

pagetop