君に心を奪われて
君の正体
翼の怪我はかなりの重症だったらしく、退院するのはだいぶ先になるのだ。
「翼、ゆっくり歩いて」
「嫌だ、早く花菜と……あっ!」
私は翼のリハビリに付き添っているだけなのだが、翼は目の前で転んでしまった。私もいるから急いでしまうのだろうか。
「もう転ばないでよ、今日はこれで……」
「いや、まだやる。俺は花菜と一緒に学校に行きたいから」
翼はそう言って笑った。私のために無理なんかしなくていいのに。
翼は汗を流して手すりに掴まりながらゆっくり歩いている。その姿を見て、胸が苦しくなった。
「ねぇ、翼」
「何?」
私は茜先輩のことをずっと聞いてみたかった。
「茜先輩とはいつから一緒なの?」
「えっ、何で……」
「事故に遭った後に仲良くなった」
少し不安な表情をした後、翼は迷い無く言った。
「保育園の頃からずっと一緒だよ」
やっぱり、翼は洗脳されている。
――出会ったのは小学校に入ってから家の前で……。
茜先輩が言っていたことをなんとなく思い出した。保育園の頃から仲が良いというのは翼のお父さんが仕掛けた嘘らしいのだ。
「疲れた……病室に戻るよ」
翼がそう言ったので、私は車椅子を出した。本当は松葉杖が良いかと思われたが、右手と両足を負傷しているのでダメだった。
「花菜」
私が車椅子を押していると、座っている翼が呼んだ。私は顔を覗き込む。
「いつもありがとう。早く退院出来るように頑張るから」
「あっ、でも無理しちゃダメだからね」
「うん」
二人で笑い合った今日も幸せなものに思えた。
病室の窓を見れば、外では雪が降っている。もうすぐで冬休みだ。病院だと時の流れを忘れてしまうのだ。
「私はもう帰るね」
「うん、じゃあな」
「またね」
私は病院から出た。外は雪が舞い散っており、空は真っ暗だった。
翼、早く治ってほしいな……。