君に心を奪われて



今日は茜先輩に誘われて翼の病室に向かっていた。


「翼のお母さん居たりしないかな。翼のことで聞きたいことがたくさんあるんだよね」


茜先輩の呟きに私は首を傾げた。翼の秘密なのだろうか。私は聞いてみた。


「もしかして、翼の“正体”ですか……?」


「うん、アタリ。まぁ、正体ねぇ……」


私の言葉に茜先輩は二回くらい頷いていた。そんなに私の表現方法が変だったのだろうか。


病院を歩いていると、翼のお母さんが居た。誰かを探しているように見えたので、私達は話し掛けてみることにした。


「翼のお母さん、どうしたんですか?」


私がそう聞くと、大切な人に再会したように明るい顔を向けて私の手を握った。


「花菜ちゃん、やっと見つかったわ!」


私が見つかったことに喜んでいる翼のお母さんに茜先輩は単刀直入に聞いた。


「翼は何者なんですか?」


「えっ……」


急な質問に翼のお母さんは黙ってしまった。少し考えた後、翼のお母さんは口を開いた。


「これは茜ちゃんには言えない。花菜ちゃんだけなら言えるの……」


「どうしてですか?」


翼のお母さんの答えに茜先輩は気に食わずに焦りながら聞く。


「花菜ちゃんは翼にとって、人生を変える人らしいの。茜ちゃん、ごめんね。花菜ちゃん、どこか違うところで話そうか」


「えっ、はい……」


私は顔を歪めた茜先輩に頭を下げてから翼のお母さんについて行った。


私が翼の人生を変える人?むしろ、私が翼に救ってもらったようなものだ。私自身だけでなく、翼本人の人生までも変わっているのだろうか。


翼のお母さんに連れて来られた場所は、翼の家だった。玄関にはお父さんの物だと思われる革靴が置かれてあった。私はリビングのソファーに座らせられた。


「じゃあ、ゆっくりと話していきましょうか」


翼のお母さんは紅茶を一口飲んで話し始めた。







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