君に心を奪われて


*****

(翼母side)



私の夫は能力者だった。未来を予知する能力を持っていた。


ある日の夜だった。私と夫が一緒に寝ていると、子供の鳴き声が聞こえて目が覚めた。そこには赤ちゃんが居て驚いた。


『この子は何者だ?予知されてなんかないぞ』


その赤ちゃんはかなり特殊だった。黒く小さなツノとしっぽに羽が生えていた。赤ちゃんの服のポケットに小さく折り畳められた手紙があった。



――――――――――――


この子は悪魔の子です。

悪魔の世界では治安が悪く、子育てなんて出来ないので、お子様を授かることが出来ずに居る夫婦に授けることを決めました。

この子を育てて行けば、ツノもしっぽも羽も無くなります。

全て貴方達の色に染まっていくのでご安心ください。

名前はご自由に決めてください。

この子が幸せに生きることが出来たら幸いです。

大きくなれば能力を発揮してしまうかもしれませんが、どうか支えてあげてください。

最後に赤ちゃんに言います。

未熟な母親でごめんなさい。

もう悪魔のお父さんとは違って私は人間で寿命が無いのです。

顔が見れなくてもずっと思っています。

いつか素敵な人と結ばれて幸せになってくださいね。


―――――――――――



私達はその手紙を見て呆然とした。夫はその赤ちゃんを抱き締めて言った。


『翼……。翼にしようか』


夫の言葉に驚いて首を傾げていた。夫は笑顔でこう言った。


『もう決して見ることは出来ないだろう悪魔の黒い翼。きっとこの子は純粋に綺麗な天使のような白い翼になってほしい』


私は夫の提案に賛成した。翼……良い名前だと思った。


『翼くん、よろしくね』


念願の子供も手に入れた私達は涙を流しながら翼を抱き締めた。


私は子供を産めなかった。そういう体質だったのだ。夫も子供を欲しがっていたので、どんな形でも子供を授けたことが嬉しかった。


夫はどんなに酷い形でも大切に育てたいと言っていた。彼に能力があるのは、彼も悪魔の息子であったからだ。まさに翼と同じような舞い降りたのだと。


さすがに自分色に染まるのは困る、と彼は私に翼の世話を任せていた。


まだ羽なども生えているので、保育園には行かせずにずっと家の中に居させた。


『まんま』


そう言った翼の笑顔は忘れられない。私はずっとこの子を愛し続けていた。


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