君に心を奪われて
数年後には羽なども消えていた。夫と一緒に驚いていた。
ある日、夫はまた未来を予知したのだった。彼は全てを話してくれた。
幼なじみの茜という少女とずっと一緒に居たが、中学生になると花菜という少女に出会う。翼は花菜と結ばれて幸せになる。
そんな大まかなことを夫から言われた。私はあまり信じることは出来なかった。
夫は翼のために大きな秘密基地を作った。将来、この子が自分のことを知って引きこもりになった時のために。
翼の小学校の入学式。家の前で茜ちゃんに出会った。やはり、夫の予知は当たっていたんだと思った。
それから七年も経って、翼はクラスでの人気者になっていた。
体育祭の終わり。私は分かった。この世に運命というものが存在することを。
花菜ちゃんに告白した翼に私は驚いてしまった。本当に出会えてしまったのだと。
翼は私の色でなく、花菜ちゃんの色に染まっていった。
そんな翼を見ていた夫は離婚すると言い出した。そして、本当のことを言うと。
不器用な夫がとった翼への優しさなのだろう。自分と居れば翼は悪魔になってしまうのと、自分のことをちゃんと知ってほしかったのだと。
夫はまた予知をして二人を別れさせようとした。だけど、運命に抗うことは出来なかった。
二人はいつも幸せそうで羨ましく思えた。こんなに純粋に愛し合えるなんてすごいことだと思っていた。
夫はいつか花菜ちゃんにも言おうと思っていたみたいだった。二人は人を救うために生きてほしいと思ったらしい。
こんな事故が起こってしまうのは翼の能力のせいだと夫は言っていた。『胸が苦しくなる』という能力らしい。
『まだこの子にはたくさんの能力が秘めてある。その能力を誰かを救うために使って、幸せに最期まで生きてほしいんだ』
私は夫が一番、翼を愛しているんだと悟った。
*****
「二人ならきっと幸せに生きて行けるわ。そう信じてる」
私は翼のお母さんの話を聞いていて、なんとも言えない気持ちが混ざっていた。
悪魔だと言う翼を軽蔑するわけがない。悪魔だろうが人間だろうが関係無く私は翼を愛する覚悟がある。
翼が嫌っていたお父さんが一番翼を愛していたという事実に驚かされた。
「じゃあ、私は仕事があるから行くね」
そう言って、翼のお母さんはリビングから出た。私も翼の家から出た。