君に心を奪われて
今日も私は学校で常々考える。翼の正体のことを。
茜先輩はかなり気になっている様子だけど言えやしない。翼のお母さんが茜先輩に話すことを拒否したのだから。
「相変わらず、花菜は難しい顔をしてるな」
「えっ!」
私がずっと翼のことを考えていると、風間くんが話し掛けてきた。私は急に話し掛けられて驚いてしまった。
「どうしたんだよ。加藤先輩のことか?」
「うん……」
「それなら素直に話してみてよ」
風間くんなら秘密を守りそう。だけど、まだ信じられない。茜先輩のような性格なら言いたくないけど、風間くんみたいな優しい人なら翼の秘密を守ってくれるだろう。
「風間くん。秘密ってちゃんと守る方?」
「守るよ、花菜の秘密なら。加藤先輩の秘宝とも言える秘密だろうから場所変えようか」
「秘宝……」
翼の正体を秘宝というもので表されるのは少し可笑しいと思った。彼らしい表現だと思ったが。
連れて来られた場所は誰にも使われない静かな教室だった。私達は椅子を置いて座った。
「ゆっくり話してみて。俺は加藤先輩の秘密を誰にも言わないから」
「うん……」
これが翼のお父さんに予想されていたら安心なのだが、必ずしも正しい予知が来るとも思えない。これが翼のお父さんに知られてしまったらどうしよう。
そんなことを考えながら私は口を開いた。
「翼は人間じゃない……悪魔なの……」
「えっ、悪魔……?」
衝撃的な発言に風間くんも驚いた顔をしている。言わない方が良いのかもうわからない。
「たぶん、翼はそろそろ自分の能力に目覚めて制御も出来なくなるかもしれない。そのことに翼の親が密かに心配してる」
「ねぇ、その能力によっては人を救えるんでしょ?」
「えっ?」
私は風間くんの問いに首を傾げた。彼は目の前で笑顔を向けてきた。
「それが人を救えるのなら、ボロボロになった人を救えば悪魔だろうが関係ないよ。他人には恩人とか神様だって言われるよ」
翼のお父さんがそんなことを言っていたのを聞いた。まさか、翼が誰かを救うところも予知していたのかもしれない。
「まず他人を救う前に悪魔だと知らされてボロボロになった自分を救わなきゃ意味ないんだよ。先輩自身も花菜自身もみんな自分が自分で救わなきゃいけないんだ」
「自分が自分自身を救う……?」
「自分のヒーローになってから誰かのヒーローになれば良い。花菜自身が救われたら、先輩を救うことだって出来る。俺も自分を救えたどうかわからないけど、それだから花菜を救えるんだ。たくさんの人を救おうとしたってまずは自分自身が救われないと出来ないんだよ」
風間くんの名言に私は固まってしまった。どう返して良いかわからない。それほど風間くんが言ったことはすごいのだ。
たくさんの人を救う前に自分自身が救われないと出来ない、この言葉が胸を打たせた。やっぱり風間くんは優しくてすごい人なんだと改めて思った。
「今日、加藤先輩のところに行けば?救えるかもしれないよ」
「うん、そうするよ。ありがとう」
私は立ち上がって風間くんに礼を言った。風間くんは小さく微笑んだ。私は教室へ戻った。