君に心を奪われて
学校が終わり走って翼が居る病室に向かった。早く君に会いたい。君を救いたい。
「翼!」
「おっ、花菜。久しぶりだな」
実はあの話を聞いてから病室に訪れていない。怖かったからだ。翼の秘密を知ってもなお、君にどんな顔をして会っていいか不安になる。
「花菜、なんかあった?」
翼が心配そうな顔で見ている。私はそんな彼に素直に笑えない。君に会って話す日常が幸せでとても嬉しいのに、どうしてだろうか。
「翼……最近、変なことあった?いつの間にかこうなってたり、とか……」
「うーん、無いね。事故以外は思いつかないや」
「そっか……」
私の話に翼は首を傾げていた。
翼にちゃんと言った方が良いだろうか。本当に私が翼を救って、翼にとっての“人生を変えてくれた人”なれるならば……もう言ってしまおうか。
「翼、お父さんに超重要なこと言われなかった?」
「えっ……」
「自分は何者か……」
「何でそれを……」
翼は明らかに焦った顔をしている。やっぱり悪魔だっていうことは知らされたんだ。愛の詳細を知らぬまま。
「お母さんから全部聞いたよ。翼が何者か、翼が……」
翼は目の前に震えていた。自分の正体を聞きたくないことだろう。
「どれだけお父さんに愛されていたか、も……」
翼は体を起こした。その表情はかなり歪んでいる。
「そんなわけない!あんなヤツ……俺なんか愛してないよ!」
「翼、あのね……お父さんは翼のために離れたの。翼が自分色に染まらないように」
「えっ?」
翼は明らかにわけわからないというような顔をしている。私は話を続けた。
「自分も悪魔の子だったから、余計辛かったと思う。翼は自分の二の舞にしたくなかったんだよ」
「えっ、父さんも悪魔……?」
「お父さんには未来を予知する能力だけが残されていたの。翼を救うために茜先輩などを使って私と別れさせようとしたりしたの」
茜先輩を使ったというのはあまり根拠はないが、たぶんそれもあるだろう。翼というたった一人の血が繋がらない息子を守りたかったのだろう。
「決して翼は二人の間に生まれたわけじゃないけど、それでも二人は愛していたの。大切な息子だと」
「嘘だ!そんな……」
「本当だよ。翼がどんな人生を歩むかもお父さんに見えていたから、翼を守ろうとしたんだよ。大切な息子を長く生かしたいと」
君を愛している人はどこにでも居る。私も君の両親も私の両親も、実は風間くんも……みんな君の成長を見ているんだ。その姿を見るだけで感動させられるんだ。君の友達だってたぶんそうだ。