君に心を奪われて
産婦人科なんて絶対に来ることはまだあり得ないだろうと思っていた。まさか、この年でここに訪れるなんて思ってなかった。
「本村さん、診察へどうぞ」
私達は呼ばれて診察室に入った。そこには眼鏡を掛けた優しそうな男性の医者が居た。産婦人科に男性医師ってなんか不安だ。
「試しにエコーで見てみますか」
私はベッドに横たわり服を上げてお腹を出した。冷たいものがお腹に当たった。
「お父さんもよく見てください」
「えっ?」
先生にそう言われて翼は驚いた顔をしていた。そんな翼に先生は笑った。
「お腹の子のお父さんでしょ?ちゃんと自覚を持ってね。高校生の出産も稀ではないけどやっぱりそれなりに責任感は持ってるからね」
先生は言いながらエコーを見ていた。
「あっ、ここですよ。ここに赤ちゃんの少し形になってきてますね」
「うわぁ、すごい」
画面には小さな物体が見えた。これが私達の赤ちゃんなのだろうか。
「もう少ししたら男女が分かると思うので楽しみにしてください。あと、検診は定期的にね。高校生とかは勇気が無くて病院に行けなかった人とかいるからね」
先生はまた優しく微笑んだ。良い先生だと思った。
「お父さんもちゃんとお母さんを支えてあげてください」
「はい!」
翼は満面の笑みで元気良く返事をした。そんな様子を私とお母さんは笑って見ていた。
産婦人科を出ると、お母さんが携帯を出した。
「今日は翼くんの親を呼んでパーティー開くわよ!」
「えっ、お母さん……」
私と翼は顔を見合わせて苦笑した。お母さんもけっこうなお調子者だ。
お母さんが電話を終わらせた後、本当にパーティーの準備を始めた。
「お義母さん、手伝います」
「ありがとう、翼くん。さすがイケメンだわ」
それは確かに言えると思った。世界中のみんなに自慢をしたくなるほど翼はイケメンでとても優しくて……とにかくイケメンなんだ。
「お母さん、私も……」
「アンタは安静にしてなさい。子供産んでるんだから」
「はい……」
妊娠してるからそんなに激しい運動は出来ないのだ。楽なようで意外とつまらないものだ。
チャイムが鳴り、私は玄関に向かった。扉を開けると翼のご両親が来ていた。
「花菜ちゃん、本当にごめんね!」
「花菜さん、馬鹿息子のせいで……」
まさかの謝罪の雨だった。私はとにかく微笑んでみた。
「いいえ。私は翼の子供を産めるなんて光栄なことだと思っています。幸せです」
私がそう言うと、二人が微笑んで頷いた。
「花菜!」
後ろからお父さんが来た。お父さんは翼のご両親を前に一回頭を下げた。
「本当にうちの息子がすみません」
「いえいえ、愛し合ってる二人が結ばれるなんておめでたいことだと思ってます」
お父さんが笑顔で答えていた。
最初は変な茶番が続いたけど、最高のパーティーだった。