君に心を奪われて



しばらく経ってから私と翼はまた産婦人科に訪れていた。


「予定日は二月の上旬くらいでしょうね」


私達は顔を見合わせて笑い、私のお腹を見た。翼も恐る恐る私のお腹を撫でた。


翼と一つになってから四ヶ月が経とうとしている。私達はそれから市役所に向かった。私達は妊娠届出書を出した。


四週間に一回、私達は病院に訪れる。妊婦健康診断というものらしい。


相変わらず、病院の先生は優しく接してくれる。高校生の不安そうな夫婦の扱いに慣れているかもしれない。先生は私をお母さん、翼のことをお父さんと呼ぶ。それで現実だと思わされる。


最近は翼が私の家に泊まって、つわりで苦しむ私を支えてくれていた。


吐いてしまう時も隣で私の背中を撫でてくれた。食欲が無い時は翼が私のお母さんに教えてもらいながらお粥を作ってくれた。


本当に倒れてしまいそうな時は片時も離れず、翼はずっと隣に居て囁くのだ。


「花菜、愛してるよ」


「うん……私も翼が大好きだよ」


それを遠くから離れて私達の両親が見ていることは知らなかった。


翼が私のお腹を撫でると、私の頬にキスをした。たまに最悪なタイミングで吐き気が到来したこともあったけど、今回はならなかった。


祥也もたまに家に来ては私のお腹を見て顔を歪める。きっと彼の心の中は複雑なのだろう。


「本当にイケない先輩ですね」


必ず祥也はそう言うのだ。それでまた翼と言い合いになるのだ。見ていて呆れるよ。


そんな毎日が何度も何度も繰り返されるように流れて行った。



安定期に入って翼と近所を歩いたりした。マタニティーウエアを着るのは少し恥ずかしかった。


だけどそれも幸せに思えた。翼と居たら何もかも幸せに思えるんだ。


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