君に心を奪われて



7ヶ月が経とうとする時、母子手帳と父子手帳を私達は眺めていた。


「現実味無いね」


「そうだなぁ」


そして、私達は心を決めて両親学級に行くことにしたのだ。


行ってみると、私達より年上の夫婦が多かった。高校生で産む人なんてあり得ないよね。


講義の内容は出産後の話だった。私達は不安で震える肩を寄せ合いながら聞いていた。


沐浴の練習で翼はかなり戸惑っていた。周りの夫婦は微笑ましそうに見ていた。


「若いのに偉いわね」


私は一つの夫婦に話し掛けられた。未だ高校生の私達がここに来るのは場違いだったのだろうか。


「旦那さんすごいカッコいいね!」


「いえいえ……」


その奥さんは優しく明るく接してくれた。翼も嬉しそうだった。


「男女は決まってるのかしら?」


「まだですね」


まだ健診に行っても分からないと言われるのだ。奥さんは優しく笑って言った。


「ウチは男の子よ。名前はもう決まってるの」


「どんなお名前ですか?」


「司(つかさ)って言うのよ」


なんか翼に聞こえたけどそれも良い名前だと思った。私達はお互いに祝福し合いながら練習をしていた。


人形を抱える翼の姿はまるでお父さんの姿に見えた。大事そうに預かっていた。


「花菜、腰が痛い……」


「えっ?若いのに?」


「それはお前も一緒だろ」


翼は腰が痛そうに擦っていた。この年で腰痛なんて危ない予感がした。


妊婦の気持ちを体験する重りを強制的に翼が付けられた。若いという意味だろうか。


「ああ!重い!花菜!」


「叫ばないの。若いから」


「若いを付けるな!ああ!花菜、お疲れ様!」


どさくさに紛れて感謝の言葉を口にする翼に私は呆れてため息を吐く。周りの夫婦も羨ましそうに見ていた。


「本当に君達は愛し合ってるんだね」


さっきの夫婦の旦那さんが話し掛けてきた。翼は重りを外して寝転がっている。


「いつもどうなの?高校生ってどんな感じだろうなって」


「えっと、いつも夫の翼が囁いてくるんですよ。愛してるって、そのままキスされます」


「良い惚気話だね」


旦那さんに笑われた。確かに惚気話にしか聞こえないだろう。



両親学級を終えて私達は家に帰った。


子供がお腹に居るのに翼は熱いキスを仕掛けてきた。そんな甘い君も大好きだ。



< 63 / 80 >

この作品をシェア

pagetop