君に心を奪われて
最期の時
翼side
両親学級から腰が異様なくらい痛かった。いつもお世話になってる産婦人科の先生に言われるがままに血液内科に行かされた。
「白血病ですね」
それを聞いた時、俺は夢じゃないかと思った。でも現実なんだ。花菜のお腹を見ればひしひしと伝わる。
子供の顔を見れずに死ぬのかな。少し怖くなった。
「……生きろ」
病室で花菜の前で泣いてしまった。自分がどれだけ弱いか身に滲みるほど分かる。こんな弱いヤツじゃお父さんにも慣れない。
花菜の友達の命を助けた代償なんだ。他人の運命を変えたのがいけなかったんだ。だけど、花菜のためなら救いたかった。
花菜を笑顔を見ていたかった。
こんなバッドエンドあるのかよ。いや、花菜がよく読む本で聞いた気がするな。
白血病か。若いほど進行も早いらしいのだ。テレビでよく見掛けていた。
横にぶら下がってる点滴はたぶん抗がん剤だ。白血病は血液の癌だと言われているからだな。
たぶん、俺は治療をしても治らない。だけど、少しでも長く生きられるなら治療をしたい。
「花菜、俺は死んでもお前を愛してる」
「翼……そんな……」
たぶん、俺の能力があっても運命は変わらない。自分の死だけは変えることが出来ないのだ。本当、理不尽な能力だ。
「この世は理不尽だな……」
俺はそう呟いて、花菜の膨らんだお腹を触った。もう胎動を感じるくらいになったのか。
「じゃあね、翼」
「うん、またな」
花菜はもう妊娠八ヶ月になろうとしている。だけど、俺は子供の顔すら見えずに死んでいくのだろうか。
この代償はかなり大きい。変なところで能力を使ったのが大きな過ちだった。
君が好きなのは変わらない。今日も君はトイレで吐いているのだろうか。そんな時に俺がついてあげてたらいいのに。
白血病って何だよ。絶対に治らないだろうな。どれだけ運命を変えても無理なことなのだろうな。
俺はまた静かに涙を流していた。
花菜とずっと生きたい。死にたくない。笑っていたい。子供とみんなで幸せな家庭を築きたい。
何で俺が死ぬんだよ。何で……。
そんな時、ノックの音が聞こえて振り返った。