君に心を奪われて
「父さん……」
「また予知が来た」
父さんは真顔でそう言った。だけど、その目は少し泳いでいて、何かに動揺しているように見えた。
「お前の子供の話、聞くか?」
俺の子供の未来まで予知が出来るのか。俺は興味があったので頷いた。
「お前の子供はな、お前が死んだ直後に産まれる」
「えっ……」
「その子供の名前は平仮名でつばさだ」
「えっ?」
俺が死んだ直後に子供が産まれて、その子の名前をつばさという名前にしたということなのか。実によく分からない。
「お前みたいに残酷な運命に囚われず、自由に羽ばたくように生きてほしいという意味だ。残酷な時によく名前なんか決められたよ、すごいな」
花菜がそんな思いを込めて俺の名前を子供に名付けたのか。
「そして、弱々しい花菜さんに風間くんという少年がプロポーズをする」
何でそこで祥也が出るんだ……?しかも、プロポーズってどういうことだよ!
「風間くんと結ばれて、時期にもう一人の娘を産む」
「えっ……」
「風間つばさ、風間花菜ということになるわけだ」
「加藤花菜だったら良かったな」
「お前は死んでるから到底無理だ」
父さんが気味が悪いくらいクスクスと笑っていた。父さんが笑うなんて珍しいと思った。
「つばさちゃんは毎年誕生日で疑問に思う。知らない人の墓参りにわざわざ連れて行かされることに」
「それって、俺の……」
「それ以前にお前は前世の記憶を持ったまま来世として産まれてくる」
「はっ?」
俺が今の記憶を持ったまま来世として生きることになるのか。
「それで、つばさちゃんと結ばれるんだよ。家で花菜さんと三人で話した」
俺が子供と結ばれて、花菜と話すのか。色々と複雑だ。
「前世の記憶を正直に話した。すると、花菜さんはやっと名前の由来をつばさちゃんに言ったわけだ」
「えっ、言ってないのか?」
「そうらしい。それで、つばさちゃんは名前のせいで色々いじめられたらしいからな」
それから長々と俺の来世の話をしていた。結局、能力を持っているのは変わらないらしい。
「お前の来世での名は前島司だよ」
「えっ、司……」
両親学級で出会ったあの夫婦の子供の名前だ。俺はあの子供に生まれ変わるということなのか。
「俺はこれから仕事があるからもう行く。最後に一つだけ……」
父さんは俺に近付いてきて俺の頭を撫でていた。
「ごめんな、不器用過ぎる親で。お前を俺の二の舞にしたくなかったんだ。本当は愛してたよ」
父さんが俺から離れて病室の出口に向かった。
「翼、最期まで一生懸命に生きろ。花菜さんと最期まで幸せに居てほしい……じゃあな」
父さんはそう言って、病室から出て行った。