君に心を奪われて
「花菜!」
祥也が腕を掴んでいた。私はそこで我に返った。
「こんな時で悪いけど……」
私は祥也の言葉に首を傾げた。祥也の目は涙で潤んでいた。
「花菜が……好きだ」
祥也は一筋の涙を流しながらそう言った。
「翼は全部を知ってるはずだ。お父さんの力で、俺達が結ばれることも知ってたはず。だから翼は最期にああ言ったんだよ」
『花菜、祥也と幸せに、なれ……』
そうだ。翼ならお父さんの予知能力で先のことを知っている。翼がこうなることを最初から願っていたのか。
「花菜、結婚してほしい。俺はお前もあの子も支えていける覚悟と自信がある」
「嫌……嫌だ!」
「現実的に考えろ、お前は一人であの子を育てられるのか?」
現実的に……。私は翼を永遠に想っていたいだけなのに。
「永遠なんか無いんだ!現実を見ろ!加藤先輩の言う通り、俺と結婚しろ。最期に先輩が遺した言葉を忘れたのか?」
「そんなの覚えてるに決まってるでしょ!」
「俺は全力であの子を育てる!だから……」
私は祥也の言葉を無視して走った。学校を抜け出して、もっと遠くへ走って行った。
気付くと、病院近くの公園のベンチに座っていた。小さい子供が遊具で遊んでいた。
「はぁ……」
私はため息を漏らした。君なら追いかけて来るのだろう、と考えた。
ごめん、翼。私、貴方が居ないと生きていけない。
もう死のうかな……。
「あれ?花菜さん!」
そこには両親学級に居た奥さんが居た。奥さんは私の隣に座った。
「あれからどうですか?いつもみたいにラブラブしてるのかな?」
奥さんが聞いてきて、私は俯いた。そんなことはもう出来ないから。
「実は……翼は死んだんです。白血病で……」
私がそう言うと、奥さんは驚いた顔した。
「死んだ直後に子供が生まれて……」
「そんな……」
「名前は平仮名でつばさにしました。定められた運命に囚われず羽ばたくように自由に生きてほしいと思って。彼みたいに辛い思いをさせたくないから……」
また涙が溢れてきた。いつ涙腺は乾くのだろうか。