君に心を奪われて
「そうね……辛いよね。大切な人を失ったら」
私は奥さんに抱き付いて泣いていた。
「思い出したくないだろうけど、聞かせて……」
「はい……」
私は奥さんのお願い通り、出会った日から今日までのことを話した。
雨宿りで変な空き家に入った時、翼に出会った。それは彼の秘密基地だった。
それから私達は毎日、ずっと一緒に二人で過ごしていた。
体育祭の解団式で翼に告白されて、本当に嬉しかった。あの日の情景は忘れられない。
秘密基地で甘い一時を過ごしたこともあった。
私は翼の幼なじみに苛められていた。そのせいで、翼は交通事故に遭った。
そして、翼のお母さんから彼の正体を知った。
私には新しい友達が出来た。友達が病気で死にそうな時、翼は自分の能力を使ってしまった。
「能力……?」
「はい。翼には不思議な能力を持っていたんです。人の運命を変えると、自分は死に近付くと……」
「そんな……」
翼との間の子供を産んだ。幸せいっぱいな毎日を送っていた。
だけど、白血病が発覚した。そして、死に至った。
その直後、私は分娩室に運ばれて女の子のつばさが生まれた。看護師や医者の配慮なのか、分娩室に翼の死体が運ばれてきた。
私はそこで彼と同じ名を子供に付けた。
退院して久しぶりに学校に行くと、翼の机に花瓶が置かれていてショックだった。
「私の男友達が突然告白してきて、逃げ出して……今に至ります」
「……そっか」
奥さんも俯いてなんとも言えない様子だった。
「でも、その男友達と結ばれろって旦那さんが言ったなら素直にした方が現実的に考えて良いと思う。だけど、貴方が辛いならまだ結婚しなくて良いと思うの」
私は奥さんの言葉に顔を上げた。奥さんは私の手を強く握った。
「貴方の人生なんだから自由で良いと思うの。だからつばさちゃんにもその名前を付けたんでしょ?」
そうだ。翼の人生でもなく祥也の人生でもなく、私の人生なのだ。私がどう選択しても良いのだ。
「貴方は自由に生きて良い。まだ高校生よ?楽しい毎日が待っているかもしれないわ」
奥さんの目は少し潤んでいるようにも見えた。私はまた泣きそうになった。
「良いのよ。貴方はどんな選択をしようと構わない。貴方の人生なのだから」
「うっ……」
涙がまた溢れ出した時だった。
「花菜!」
私はその声がした方を向き、驚いた。