転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中～不器用な溺愛は何よりも甘いのです～

こうして私はこの小さな村にお世話になることになった。その間に異世界についてわかったことは、私が元々いた世界と大きく違いはないということだ。おかげであまり困らずに生活できている。
ただ発展は幾らか遅れているようで、うっかり自動車なんかの話をしてしまった時は変な顔をされたりもしたけれど、物の名称はほとんど一緒だった。少し前の時代のヨーロッパのどこかの国にでも漂流してしまったのだと思えばそこまで問題はない……と思い込むことに……した。

最初は村の人達の怪我を無償で治していたのだが、森から出てくる人達が寄っていくのでそのうち彼らの怪我も治すようになった。そうするとやはり各地に噂が広まっていく。

あそこの村には怪我を癒してくれる聖女がいるらしいぞ、と……誇張され尾ひれがつき、辺鄙な村から遠く煌びやかな王都にまでも────


私が村に定住してから3ヶ月が経った頃、2人の武装した若者がやってきた。

顔をフードと襟巻きで完全に隠していたが、振る舞いが明らかにこれまでの旅人や冒険者と違う。所作が堂々としているというか、気品がある。

背の高い方がこちらを見下ろして、暫く無遠慮にじろじろと眺め回した後鼻を鳴らした。

｢……ふん、期待外れだな。誰だ？こいつの事をヘーゼルの瞳の女神のような絶世の美女とか嘯いた奴は。目の色しか合ってないじゃないか｣

｢な……！？｣

失礼な！本当に誰よそんなこと言った奴！

｢まあまあ、噂とはそういうものですから｣

そういうものですから、じゃない！そっちのあなたも否定してくれてもいいじゃん……

私は酷く不機嫌になりながらしっしっと手を振った。

｢あの、よく分からないんですけど冷やかしならお帰り頂けますか？ここは怪我をしている人が来る所なんですよ。あなた方は見た感じお元気そうですし｣

｢ああ……そんなことか。大丈夫だ、俺が今から怪我人になる｣

奇怪なことを宣うフードの青年に何かを言う前に、彼は何の躊躇いもなく剣を抜いた。周囲に居た人達が悲鳴をあげ、状況がわかっていない村人達が恐慌に陥って慌て始める。