転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「マイカ・クスノキ。取り敢えず相手に暴力を振るったら賠償が必要だと思うんだが?」

「はぁ?元はと言えばあなたがあんなことを……」

これ見よがしに頬を指差すグイード殿下に私はつい突っかかりかけて言葉を飲み込んだ。

うーん、仕方ないか。王子様みたいだしこっちが下手に出ないといけなさそう。

「……わかりました。でもしょーがなくですから!これっきりですからね?て言うか私自傷した人は治しませんから!」

「あーわかった、わかったから早くしてくれ」

王子様なのに、嫌な奴。そう思ったのを隠しもせず顔に出しながら、私はグイード殿下の頬に手を翳して嫌々口を開いた。

「……痛いの痛いの飛んで行け」

既に赤く腫れ始めていた頬が元の磁器のような白に戻っていく。ちょっとスカッとしてたのにな、いっそ治らなきゃよかったのに、と私はため息をついた。

グイード殿下は痛みが引いたのがわかった様子で僅かに目を見開くと頬に触れた。剣の刃に自分の顔を映して確認すると、満足そうに頷いた。

「ほう、一応力は本物みたいだな。お前はなんだ?呪術師か?」

「呪術師?」

聖職者とか呪術師とか、そんな人がこの世界には実在するのか。へー、異世界凄いなぁ……と気の抜けた声で反芻した私を見て呆れたような憐れむような視線を向けてくる。

「学が足りないのか知らないが……まあ良い。シャルキ、予定通りこいつを連れて帰るぞ」

「かしこまりました。行きましょうか、マイカ様」

「…………えっ?」

シャルキさんが私の腕を取った。びっくりして振り払おうとするが力が強くて離れない。にこやかな顔が怖い。連れて帰る?待ってよ、私の家はもうここなの。右も左もわからない私を住まわせてくれた人達がいる所なのに。
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