転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「────マイカ!」

馴染みのある声にはっとして振り返る。今日は森の方に出かけると言っていたはずなのに慌てて帰ってきたのだろう、バレンさんが息を荒らげてドアの方に立っていた。

「グイード殿下にシャルキどのまで……こんな小さな村に……何の御用事ですか」

「見てわかりませんか?マイカ様に城までご同行して頂くのですが」

「どうして、なぜマイカを」

「本当に知らないのか、知っていてとぼけているのか……当然、グイード殿下の花嫁候補としてですよ」

口を開いたバレンさんは、何か言おうとして結局何も言えずに口を閉じた。周りもしんと静まり返っている。状況が掴めていないのは私だけのようだ。

「今大人しく引き渡せばこの村の罪は全て免じてやる。それでいいな?村長」

「は、はい……」

いつの間にか王子のそばまでやって来ていた村長が地に伏せて深く頭を垂れる。

「ほら、行くぞ」

「ちょっと!?ちょっ……何なんですかっ!」

青年2人に抱えられてはもがいても身動きが取れない。あれよあれよという間に村の外に乗り付けてあった馬車に放りこまれた。前にはグイード殿下、横にはシャルキさんが座り馬車が走り出す。

「……あの……人攫い、ですか?」

おずおずと切り出した私にシャルキさんがぶはっと吹き出した。

「殿下、人攫いですって……まああながち間違ってはいないんじゃないですか?」

「ふん、王子に攫われるのを喜ばない女はいないだろうが」

「マイカ様はそうでもなさそうですけどね」

「私、できることなら帰りたいんですけど今すぐ」

「まあ無理ですねえ」

「…………変な女だな……」

窓の外を眺めて心底嫌そうに呟いた私をじっと見つめて、グイード殿下は眉間に皺を寄せながら困惑したように呻いた。
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