転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
唇が柔らかいもので覆われている。肌色が視界を埋める。キスをされているのだと気づくまでに長い時間はかからなかった。

ぱん、と乾いた音が広い部屋に響き渡る。

あまり力が入らなかった。顔を離したグイード殿下は不機嫌そうな表情を浮かべているだけだ。

「何を口付けぐらいで」

「は、初めて、だったのに……っ!」

グイード殿下の言葉に被せるようにして叫ぶ。我慢できずに目からぼろっと涙が零れ落ちた。ただショックだった。

何より、なんでもない風にそんな事をされた事が。

そして、そんな事をされたのにも関わらず一瞬どきりとしてしまった自分自身に。

酷く驚いたような顔でこちらを見つめる王子を突き飛ばして部屋を出る。どこに行けばいいのかもわからないのに、私はただ足を動かした。

◇◇

たぶんあれから数時間は経ったと思う。時計も無いので時間感覚がない。

どうにか城の外にまで飛び出したのはいいが、如何せん敷地が無駄に広かった。どの方向にどこまで行っても出口らしきものはなくて、疲れ果てて植物園のようなものの奥にある煉瓦の花壇に座っていた。そう、つまりは迷子。

「ここ、どこ……?」

こんな所で迷子なんて、情けな過ぎる。考えもなく飛び出した事を後悔し始めていた。

暗くなってきた。きゅるる、とか細くお腹の虫が鳴く。

「どうしよう」

呟いても答える声はない。庭師とかもいないの?普通いるもんじゃないの?

もうよく見えないしここで一夜を明かすしかないかもしれない。そう覚悟して膝を抱えた時、足音が聞こえてきた。
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