転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
あの胡散臭い王妃様より、あなたの方が信頼できる。そう伝わるように真っ直ぐ瞳を見つめる。先に視線を逸らしたのは王子だった。

「……ああ、まったく……変な女を拾ってしまったな」

グイード殿下は乱雑に綺麗な金髪を掻き混ぜる。そして諦めたようなため息をひとつ吐いて。

「面白くもない、どこにでもある退屈な話になるぞ」

「全然いいです。聞いてどう思うか決めるのは私です」

「……はぁ……」

結局折れたのは王子だった。私に椅子を勧めて自分も向かいに座る。

「俺の名前を覚えているか?」

「グイード・メリアルーラ・シェバルコ、ですよね。何か名前が関係あるんですか?となると……真ん中の『メリアルーラ』?」

グイード殿下は小さく頷く。

「そのミドルネームは、母から戴いたものだ」

「……えっ?でも王妃様の名前はエスメラルダじゃ」

「メリアルーラ・シェバルコ。俺の母親で、俺が幼い時に亡くなったもう一人の王妃だ」

訥々と語る口調には温度が無い。自分の話をしているのではないような、まるで原稿を読み上げるような口振り。努めてそうしているのだろう。激情を堪えるように顰められた顔は酷く痛々しかった。

「国王には王妃が2人いた。俺の母親であるメリアルーラとエスメラルダだ。やがてそれぞれの王妃に1人ずつ息子が産まれた。第一王子グイード、第二王子フォン。そうなればどうなるかはお前でも想像がつくだろう?
王位継承権の問題、つまり権力争いだ。俺につくかフォンにつくか。城内はずっと殺伐としていた」

ほらよくある話だろう、とグイード殿下は肩を竦める。

「俺が6歳の時、母上が死んだ。エスメラルダ殿下は元から自分の息子を王にしようと躍起になっていたからな、喜び勇んで思いのまま権力を振るい始めた」

そこまで聞いて、思わず机に手を当て立ち上がる。

「まさかっ、あなたの母君を殺したのは────」

「それは違う……病死だ。あの女がそんな事をしていれば、俺はきっと」

そこでぶつりと言葉が途切れる。俺はきっと……その先を問うのは憚られた。想像がつくけれど、言ってはいけないし、聞いてはいけないと思った。
続けるぞ、と言われて腰を下ろす。
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