転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
と思っていたのだけれど。

「ここですわ!ありがとうございました。助かりましたわ」

優雅にお辞儀をする少女。私はと言えば想定外の出来事に首を捻った。

え?これってつまり……どういう事?

「あの……本当にお姫様じゃないんですか?」

「違うと言っているじゃありませんか」

うふふ、と笑っているものの2度同じ事を答えるのが面倒臭かったのか少し口調が雑になっている。

何も関係が無いということはないと思うものの予想がつかない。エスメラルダ殿下と仲が良い家のご令嬢なのだろうか……と唸る私を置いて奥へと進んでいった少女が視線の先でびくりと肩を震わせた。痛っ、と聞こえた気がしたので慌てて駆け寄る。

「どうしたんですか!」

「大丈夫ですわ……少しバラの棘で指を刺してしまいまして。綺麗だと思って近づきすぎてしまいましたの」

「見せてください」

傷口は極小さいし出血も大したことは無いものの、白くて綺麗な手に傷があると目立つし痛々しい。
一緒に来ているというこの子のお父様も気にするかもしれない。そこまで考えて僅かな躊躇が無くなった。

「痛いの痛いの飛んで行け」

ふっと傷が無くなる。血を拭うとつるりとした肌が顔を出した。数秒前まで怪我があったとは誰も思うまい。

「まあっ」

「あの、えっと……この事は他の人には内緒で……」

「まあそうなのですね。わかりましたわ。うふふ、2人だけの秘密ですわね」

目を丸くして指を眺め回していた少女が微笑んだ。それを見て、うっと胸が痛む。ごめんなさい2人だけの秘密じゃないです。いけ好かない王子様とかも知ってます。

でもこういう言い方をしているということは言い触らさないでくれるかもしれない。そう思って特に否定はしなかった。

そろそろお暇しようかな、と足を引いた私に、そういえば……と少女が唇に指を当て徐に口を開いた。
< 39 / 100 >

この作品をシェア

pagetop