転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
家系図等は流石に図書館には無いようなので仕方無くシェバルコ王国と名がつくものに片っ端から目を通しているものの、ちょっとびっくりするくらい量が多い。刊行年の新しいのものから選んで読んでいるつもりなのだが一向に求めている情報は手に入れられそうにない。

何十冊と読むうちにまるで真実が意識してぼかされているような、そんな感覚に陥り始めていた。それほどに最近の家系図に関する記述が避けられている。

息をついて本を変えようと立ち上がった時、手に持った『新・シェバルコ王国の歴史』が後ろからひょいと取り上げられた。ぎぎぎ、とブリキの人形のようなぎこちない仕草で振り返ると不機嫌な赤の瞳が近くでこちらをじっと見つめていた。

「我が妻は最近どこへ入り浸っているのかと思えば、国の勉強とは感心だな」

耳元で囁かれて指先で顎をなぞられる。耳を擽るように吐息がかかるのは絶対にわざとだ。

「っ……殿下……ご機嫌麗しゅう……」

目を逸らす私に王子殿下は全く麗しくなさそうな顔でふんと鼻を鳴らした。

「こんな嘘臭い本を読んでまで何が知りたいんだ?」

「嘘臭いって言っちゃうんですか?仮にも王城の図書館の書籍ですけど」

「読んでわかっただろう、王城だからこそだ……都合のいい事しか載っていない」

グイード殿下は真紅の表紙を言葉と裏腹にそっと優しく撫でて棚に戻した。何かを懐かしむような目をして。

でもそれは一瞬のことで、こちらに向けられた視線はいつものふてぶてしいものだった。

「今から行く所があるが、ついてくるか?」

「行く所?」

「多分お前の探し物が見つかると思うがな。好きにしろ」

「……あっ、ま、待ってください……!」

踵を返したグイード殿下を慌てて追いかける。先に行ってしまったのかと思ったけれど扉の前で待ってくれていた。
歩き出した王子の歩調は緩やかで、私に合わせてくれているのかもしれない、と思う。自惚れかもしれない。わからない。
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