転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
何やら最近ぐいぐい来られる。それこそ私の好意に気づいていながら気づいていないふりをして、完全にこういう事に耐性がない私を煽って楽しんでいるような節がある。

私がグイード殿下の事を憎からず思っていることはまず間違いなくバレていると思う。でも私はそれを伝える気はなかった。

口にしたが最後、収まりがつかなくなる気がしているのである。……いろいろと。

それに、まだ覚悟ができていなかった。だって彼に『好きだ』と言うことは、求婚に応じると言っているのと同義なのである。

結婚なんて、そんな事を突然言われても……まだ18だ。何ならあちら(元の世界)では高校生だったし、結婚ができる歳ではあるけれど、自分がもしするとしても20歳は越えてからかなぁ、なんてぼんやり考えていたくらいだったのだ。

好きになって、付き合って、プロポーズされて……みたいな想像していた手順を全て吹っ飛ばして、挙句の果てにお相手は異世界の王子様だなんて。

とん、と背もたれに手を置かれる感覚がして顔を上げると身支度が整ったグイード殿下がこちらを見下ろしていた。

「何を難しい顔をして考え込んでいるんだ?」

「あ、いや、別に何でも!」

「ふうん?」

若草色の襟付シャツに焦げ茶色のアンクル丈のシンプルなパンツ。今日の格好はえらく素朴だ。手に持っているのはキャスケットのような鍔の長い帽子とレンズの色が濃い眼鏡。

「……どうしたんですか?そんな動きやすそうな格好をして」

「んー?」

あ、嫌な予感がする。

「折角の休日、ちょっと愛しの妻と散歩にでも行こうかと思ってな」

顔を顰めた私に、グイード殿下はそう言って帽子を被ると上手に片目を瞑ってみせた。
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