転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
◇◇
王都に来るのは一度だけ城に来る時に馬車で通ったぶりだ。しかも今回は自分の足で歩けるので雰囲気を体全体で受け止められる。
どこからか無数の花弁が舞っている。赤、黄、紫。それと共にいい匂いが街中に広がっていく。アコーディオンのような楽器を演奏する歌うたいが座っている。街の中心地にある大きな噴水が陽の光を照り返して煌めく。
騒がしいけれど煩くはない、絶妙なバランスだ。元の世界には、どこにもこんな場所はないだろう。強いて例えるのなら日本のかの有名なテーマパークよりもずっと賑やかなくらいの盛り上がり。これが毎日だというから驚きだ。
なぜか先程店先に座るおじさまが「可愛いお嬢さんに」と言ってくれた花を指先で弄びながら、私は横を歩く王子様を見やった。
「すごいですね、それ……」
殿下の正確に顔を知っていて尚且つじっと見なければわからないだろう。完璧に王族のオーラを消したグイード殿下は楽しそうににやりと笑う。
「バレたことないからな」
「……もしかしてお城を抜け出すのとかが好きだった質ですか?」
グイード殿下がよくわかったな、と目を丸くした。そして遠くを見て懐かしむような顔をする。
「母はやっぱりこの雰囲気が好きだったみたいでな。城の堅苦しい空気が嫌だったんだろう、時折俺を連れて歩きたがったんだ。そういえば、あれからあまり来てなかったかもしれないな……」
私はその視線の先にメリアルーラさんが見えているのがわかった。王子の目が揺れる真朱の短い髪を追う。
私には見えないのに、私にも見えた。あんな話を聞いたからだろうか。
グイード殿下は軽く頭を振ると色眼鏡を外し、それを私の頭に被せた。
「気分で掛けていたが、そういえば俺にはこれは要らなかったな」
朗らかに笑う顔に邪気はない。そのことにこっそり安堵して、私はそうですね、と呟いた。
鍔を掴んで引き下げた王子殿下は何かを思い出したようにこちらを向く。
「あ、今日はグイードと呼べよ?王子じゃないからな」
「えっ、ええ、急に無理ですよそんなの……!」
「殿下なんて呼んだら怪しまれるだろう。というか、気づいてるんだぞ、お前は一度も俺の名前を呼んだことがないだろうが」
王都に来るのは一度だけ城に来る時に馬車で通ったぶりだ。しかも今回は自分の足で歩けるので雰囲気を体全体で受け止められる。
どこからか無数の花弁が舞っている。赤、黄、紫。それと共にいい匂いが街中に広がっていく。アコーディオンのような楽器を演奏する歌うたいが座っている。街の中心地にある大きな噴水が陽の光を照り返して煌めく。
騒がしいけれど煩くはない、絶妙なバランスだ。元の世界には、どこにもこんな場所はないだろう。強いて例えるのなら日本のかの有名なテーマパークよりもずっと賑やかなくらいの盛り上がり。これが毎日だというから驚きだ。
なぜか先程店先に座るおじさまが「可愛いお嬢さんに」と言ってくれた花を指先で弄びながら、私は横を歩く王子様を見やった。
「すごいですね、それ……」
殿下の正確に顔を知っていて尚且つじっと見なければわからないだろう。完璧に王族のオーラを消したグイード殿下は楽しそうににやりと笑う。
「バレたことないからな」
「……もしかしてお城を抜け出すのとかが好きだった質ですか?」
グイード殿下がよくわかったな、と目を丸くした。そして遠くを見て懐かしむような顔をする。
「母はやっぱりこの雰囲気が好きだったみたいでな。城の堅苦しい空気が嫌だったんだろう、時折俺を連れて歩きたがったんだ。そういえば、あれからあまり来てなかったかもしれないな……」
私はその視線の先にメリアルーラさんが見えているのがわかった。王子の目が揺れる真朱の短い髪を追う。
私には見えないのに、私にも見えた。あんな話を聞いたからだろうか。
グイード殿下は軽く頭を振ると色眼鏡を外し、それを私の頭に被せた。
「気分で掛けていたが、そういえば俺にはこれは要らなかったな」
朗らかに笑う顔に邪気はない。そのことにこっそり安堵して、私はそうですね、と呟いた。
鍔を掴んで引き下げた王子殿下は何かを思い出したようにこちらを向く。
「あ、今日はグイードと呼べよ?王子じゃないからな」
「えっ、ええ、急に無理ですよそんなの……!」
「殿下なんて呼んだら怪しまれるだろう。というか、気づいてるんだぞ、お前は一度も俺の名前を呼んだことがないだろうが」