転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
家具は基本的に木製で、こじんまりはしているものの暖かい印象を受ける。食器や椅子などがほとんど2組ずつしかないので、この兄妹は他の家族とは暮らしていないのだろう。

「お姉ちゃんの名前聞いてなかった」

えへへ、とユリーナが頬を掻く。その頭を撫でながら青年はこちらを見据えた。

「僕の名前はバレン。ええと」

名前をもう一度尋ねられているのだなとわかった。ファーストネームを言うべきだろうと「舞花です」と答える。

「マイカ。妹の怪我を直してくれたらしいね……ありがとう。でも俄には信じられないんだけど……」

そうだろうなぁ。私も信じられないもん。

「ホントだよ?こうやってね、私の手に手を当てて」

ユリーナが私の手を持って兄の手に翳す。その手の甲に火傷の痕があった。肌も引き釣れて痛々しく、とても自然には治りそうにない酷さと大きさだ。

「そう、痛いの痛いの飛んで行けー、って……」

そう言ったのは自分なのに、私は鋭く息を呑んだ。バレンさんの火傷の痕がみるみるうちに消えていって、やがて無くなったのだ。

「これは……」

バレンさんが言葉を失ってしげしげと自分の手を眺めている。まさか本当にまた治ると思っていなかった私は目を瞬(しばた)いた。

「マイカは……聖女様か何かなの?聖職者とか?僕はこんな田舎に住んでいるし出会ったことがないんだけど……だから神様の御加護があるとか」

「いやいやっ、そんな滅相もない」

ごめんなさい、私たぶん、この辺の神様の名前もわかりません。

「ごめん疑って。しかも僕の火傷まで治してもらっちゃって、お礼をしなくちゃいけないな。お金は少ししか払えないんだけど足りるかな……」

治療の相場がわからないが、バレンさんがあの火傷を適切な処置をした様子も無くそのままにしていたということは、きっと病院のような施設はかなりお金を取るのだろうなと推測できた。
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