転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
だって、もし私の身元がわかってしまったら、家族が見つかってしまったら、私は家に帰りたいと言うかもしれない。

グイード殿下だってそれを考えなかったはずがない。それでもこんなにも沢山の情報を集めて。

私は涙をカーペットの上に落として染みを作りながら、戦慄く唇で笑みを作った。

おかしなひと。私にいなくなってほしくないんじゃなかったの?

突然ぱっと部屋が明るくなった。眩しさに目を細めて振り向くと、グイード殿下が電気をつけてこちらに歩いてきていた。たまたま見つけてしまったとはいえこっそり見てしまったのはきまりが悪くて、急いで物陰に行方不明者のリストを隠す。

「マイカ、やっと帰ってきたのか。随分遅かったな」

「ご、ごめんなさ……っ」

こちらを見る顔を直視できなかった。顔を手で覆って背ける。そんな私の手首をグイード殿下が握った。

「おい、お前どうして泣いてる?」

「なっ、いてなんか」

「そんな情けない声でか?そんなに震える肩でか?嘘をつくならもっと上手くやれ」

少し強い力が私の手を顔から剥がす。涙でぐしゃぐしゃになった顔が恥ずかしくて、こちらを見据える綺麗な赤の瞳から私はやっぱり目を逸らした。

「何があった」

「な、何も」

我ながら馬鹿みたいな答えだった。こんなの物心ついたばかりの子どもにだって嘘だとわかる。

ずっしりと重く蟠り始めた沈黙を割いたのは、グイード殿下の「そうか」という落ち着いた声だった。そっと手が離れる。

「俺が来たから、泣いたのか?」

「……え……?」

「だってお前、帰ってこいとでも言われたんじゃないのか」

「なんで……」

わかるの、そう尋ねた私にグイード殿下は困ったように微笑んだ。

「わかる。俺とあいつは同じだったからな。それを隠そうともせず俺に向かってきた」

「同じって、バレンさんも言ってきたけど」

「わからないのか?あいつも、お前のことを憎からず思ってるってことだ」

憎からず……思ってる?バレンさんが私を好きだって思ってるってこと?

「……まさか……そんなこと、一度も……」

目を泳がせる私に、ふっとグイード殿下は唇の端を釣り上げて薄く笑った。

「言われなきゃ気づかないって?まあ伝えても素直になびかないぐらいだし、お前は存外薄情な女だよな。
俺が言うのも何だが、王子である俺に楯突いてきたんだぞ?何とも思ってないような小娘一人のためにそんなことするはずがないだろう」
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