転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「……」

言葉を失った私を今一度見つめて、グイード殿下はゆっくりと口を動かす。

「それでお前は、あいつを選んだのか?だから俺を見て泣いたのか?
……別れを告げる覚悟をしたからか?」

それを聞いた途端、ぷつんと自分の中で何かが途切れる音が聞こえて、ほんの数秒前には何も出てこなくなっていたはずの口から勝手に言葉が零れ始めた。私は言うつもりのなかったことが口をつくのをどうすることもできずに激情に突き動かされるまま唇を歪める。

「……殿下は、何をしたいのかわかりません。私をもう離せないって言ったじゃないですか。私だけにそばにいてほしいって言ったじゃないですか。それなのに……そんなに簡単に……手を離すんですか?全部嘘だったんですか?」

「違う、そんなはずないだろう!」

私は隠していた行方不明者リストを引っ張り出して目の前に突きつけた。

「これもそうです。私を家族の元に返すつもりなんですか?」

「それは……!」

殿下が焦ったような憤ったような表情を浮かべた。

「ごめんなさい、勝手に見てしまいました。こんなに調べてくださってありがとうございます。でも……」

嘘をついていた自分のことも、良かれと思ってしてくれた王子のことも全て棚に上げて、私は震える声で身勝手な願いを告げる。

「……お願い、離さないで……」

自分がどんな顔をしているのか、相手がどんな顔をしているのか、床を見つめる私にはわからない。

「絶対に離さないでほしいって。痛いくらい抱きしめてほしいって。好きっていってほしいって。そう思うのはあなただけなんです」

唇を噛んで、意を決して顔を上げる。虚をつかれたように固まったまま、こちらを見つめる王子。

「お願いだから、もう、離れるなんて言わないで」

止まった時間の中、彼の赤い瞳だけが炎のように激しく揺らめいていた。

「私は……あなたのことが好きです」

心許なく揺れる声が虚空に薄れて消えていく。最後の文字が完全に消え失せても反応を返さないグイード殿下に不安になって私は息を継いだ。

「こんなにかからないとこれっぽっちのこともわからない馬鹿な私には、やっぱり、もう……愛想が尽きましたか……?」

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