転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中～不器用な溺愛は何よりも甘いのです～

｢私は、マイカでもマイカ・クスノキでもありません。楠舞花……地球という星の日本という国で暮らしていた、普通の高校３年生です｣

｢チキュウ？ニホン？コウコ……？｣

｢その辺は聞き流していいですから｣

クエスチョンマークを頭の上に飛ばすグイード殿下に構わずに私は言葉を続けた。

｢私には家族がいます。父、母、そして祖父も祖母も。全部覚えています。誕生日も、好きなものも、どんな声で話すのか、どんな顔で笑うのかも……全部｣

｢……｣

グイード殿下が戸惑ったように息を詰めた。

｢特に何をすることも無く毎日過ごしていました。でもある日、トラック───大きなすごい速さで走る車両に轢かれそうになった女の子を助けるために……飛び出しました。
トラックって、人の何倍もあるんですよ。金属の塊で、少しぶつかれば容易く数メートルは吹っ飛びます。だから私は多分、その時に死んだんですね｣

｢……死んだ……？お前は、ここにいるじゃないか｣

私は首を横に振る。

｢それで次に目を開けたら、見覚えのない森の中に倒れてて。黒かった髪も目も違う色になって、私は私みたいな雰囲気の違う人になっていました。怪我を治す力まで手に入れました。
……ものすっごく怖かったですよ、もちろん。何が起こってるのかわからなくて。でも、村の人たちがすごく良くしてくれたんです。だから私は混乱はしながらも少しずつ異世界というものに慣れていきました｣

私は口を閉ざしているグイード殿下を見つめた。真っ直ぐこちらを見ているつもりに違いないが、赤の瞳が小刻みに震えている。

｢そんな時、突然王子様が現れて、あっという間にお城に連れ去ってしまいました。ちゃんちゃん｣

私は明るい調子で呟くと笑った。

｢だいたいこんな感じで……私は異世界から転生してきたんですよ。嘘みたいな話でしょう？自分で話してても冗談かなって思いますし……信じなくてもいいです｣

嘘。怖い。何言ってるんだって、気持ち悪い……って、思われるのが。当然の反応だと思うからこそ。

だから、驚いた。

｢ほう｣

グイード殿下は、ただそれだけ言って頷いたから。