転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「正式に婚約を結ぶと聞いてな、呼ぶことにしたのだ。突然ですまなかったな。マイカ……で合っているか、娘よ」

「は、はい!」

視線を向けられてこくこくと頷く。そして気品の欠片も無かったとハッとしたのだが、王様はなぜかむしろ少し微笑んだように見えた。たぶん、見えただけだけれど。

「まだ皆が揃っていないので、暫し待て────」

国王がそう言った時、扉が開く音がした。絨毯のせいで足音は聞こえない。振り返るのも無礼だろうと、息を詰めて待つ。

そして、私たちの横に立ったのは────

「遅れて申し訳ございません、陛下」

「お詫び申し上げますわ」

豪奢なドレスで着飾った、縦ロールが印象的なエスメラルダ殿下と、相変わらず今日も人形のような可愛らしい美貌を湛えた……角でぶつかった少女だった。

どうして……あの子が。

私はひっそりと息を呑む。しかし少女は驚いた様子もなければ、こちらの方を気にする素振りもない。

「良い。急な呼び出しであったゆえ、気にしておらぬ」

鷹揚に首を振る国王に、エスメラルダ殿下が口を開く。

「陛下が自らお呼びになるなど、どのような御用でしょうか。グイードやその花嫁候補まで呼ぶような……御用なのです?」

こちらを見る視線には侮蔑が込められている。そして少女は真っ直ぐ国王を見つめたままだ。私のことには気づいているだろうに、やはりこちらを一瞥しようともしない。

「本日は、王位継承権の件について話がある」

それを聞いた途端、エスメラルダ殿下が抑えきれない歓喜の表情を浮かべたのがわかった。

「未だどちらも世継ぎどころか正式な婚約すらもしておりませんが……早く王位継承権を確定させることにされたのですか?」

「そうだ。最早待つ必要が無いとわかったのでな」

「良いご決断だと思いますわ、陛下……」

自分の息子に王位が与えられることが決まったと確信したのだろう、うっとりとした表情を浮かべたエスメラルダ殿下は……しかし次の瞬間凍りついた。

「王位は、グイードに与える」

その国王の言葉が高い天井に跳ね返って再び返ってくるまで、だれも身動ぎすらしなかった。

もちろん私たちもだ。なぜなら、順当に行けばかなりの可能性であちらの王子に王位が与えられるだろうと思っていたから。
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