転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「お、お待ちくださいませ陛下!それは……何かの間違いではありませんか?」

「間違い、だと?」

国王がエスメラルダ殿下に鋭い視線を向ける。彼女はびくりと肩を震わせながらも媚びるような愛想笑いを浮かべて言葉を続けた。

「グイードが平民の血を引いていることは他ならぬ陛下が一番ご存知なのではありませんか?それならば、どちらが次期国王に相応しいのかは明白のはずでございます。あの王令も、ほんのお戯れでしょう?」

話していた本人は気がつかなかったのか。私はエスメラルダ殿下が言葉を紡ぐのと比例して部屋の温度が下がったのがわかった。

「……ほう」

そう言って肘掛けに肘をついた国王は、初めとは別人のように見えた。白髪混じりの金髪が逆立っているように錯覚するほどの激情がびりびりと私の体を震わせる。かっと見開かれた碧の瞳が鋭くエスメラルダ殿下を射抜いた。

「では、“他ならぬ余がメリアルーラを誰よりも愛していたのを知っていて”そう宣っている、ということで良いのだな!」

腹の底から押し出されたような低い声にとうとうエスメラルダ殿下は震え上がった。自分が失言したことにやっと気がついたのか、髪を振り乱して深々と頭を下げる。

「……陛下……も、申し訳ございません、お許しを……」

そんな王妃に目もくれず、彼は淡々と続ける。

「それと、お前はもう一つ間違いを述べた」

「間違い、でございますか……?」

「先程、お前はどちらも正式に婚約していないと言ったが、グイードがマイカと正式に婚約を結ぶと報告してきている」

「な、んですって……!」

陛下の御前だということも忘れたように悪魔のような形相でこちらを睨みつける。そして意外なことに、初めて少女もこちらに視線を向けた。エスメラルダ殿下よりももっと恨みの篭もった眼差し。美しい顔が醜悪に歪む。

どうしてそんな目を向けられるのか、私にはわからなかった。
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