転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「余からも一つ尋ねさせてもらおう」

国王の目がエスメラルダ殿下から少女へ滑った。

「お前の婚約予定の相手はどこへ行ったのだ。今日、彼奴も呼んだつもりだったのだが……アマルダ」

「!?」

危うく声を出しそうになった私は舌をぎゅっと噛んだ。

この子が、アマルダ……!?

少女────いや、アマルダは上目遣いに国王を見つめると、無表情のまま小さな声でぼそぼそと話し始めた。

「申し訳ございません……お呼びしようと思ったのですが……連絡が、取れず……」

「……あの放蕩者が」

国王はただ、そう吐き捨てた。

「エスメラルダ。お前がしかと育てぬからあれはああなったのだろう。それにも関わらず、図々しくもあれに王位を与えよと申すとは……余はほとほと呆れておるのだ」

「も、申し訳……っ」

王妃は謝罪の途中で唇を噛み締めた。しかし王はそれを気に留めた様子もない。

「余が何にも干渉しなくなったのは、関心がなくなったからではない。全てに呆れたからだ。私利私欲のために余を傀儡にしようと画策する臣下も、権力を手に入れようと息子らに取り入ろうとする貴族も……メリアルーラがいなくなった世界は恐ろしいほどに色彩がなかった……」

はあ、と一つため息をついて。

「くだらなかった。全てな。どうせ、余のひとことでどうとでもなるというのに」

萎れた外見の中、唯一爛々と光る碧の目を見開いて薄く笑う。

「余は元よりメリアルーラの子に王位を継がせるつもりであった。
……そうだな、まことあの王令は戯れであるよ、エスメラルダ。手に入れられもしない権力に群がる煩い貴族らをひととき黙らせるためのな」

「……っ」

エスメラルダ殿下が肩を戦慄かせる。それを一瞥して、王はこちらをじっと見据えた。

「それに、メリアルーラの息子が選んだ娘が……そしてその子が、『優れた』子でないはずがないだろう?」

私に向けられる目は僅かに緩んでいるように見える。少なくとも怖いとは感じない。

もしかしたら王様は……グイードと私に、自分とメリアルーラさんを重ねているのかもしれない。王族と平民、血の繋がりより心の繋がりを選んだ夫婦として。

「余は後世の民に愚王と嘲笑われようとも、メリアルーラが確かに余の愛した妻であったと、その証拠を遺せればそれだけで良いのだ……なあ、グイードよ」

「……は……」

視線を向けられたグイードは迷い子のような困惑の表情をしていた。自分がどうしていいのか、どんな感情を抱くのが正解なのかわからないようだった。父の真意を十数年の時を経て耳にしたのだから当然のことだろうと思う。
< 79 / 100 >

この作品をシェア

pagetop