転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
深く呼吸をしながらゆっくりと振り返ると……アマルダが隠しきれない怨恨を込めた目でこちらを睨みつけながら、唇には取り繕ったように笑みを浮かべていた。

「お久しぶりですわ、殿下」

そう言って軽くお辞儀をしたのはグイードに向けて。

……知り合い!?

驚いた私はグイードの顔を見上げる。グイードはなぜ私にそんな顔をされるのかわからないようで、目を瞬きながらもアマルダの方に視線を向けた。

「そうだな」

素っ気ないグイードにアマルダは芝居がかった仕草で目を伏せ口元に手を寄せる。

「私は貴方の許嫁だったというのに……冷たいお方ですわ」

「……いい、なずけ……?」

思わずぽつんと呟いた私に、嗜虐心を感じる碧の大きな瞳が酷く愉快そうな色を浮かべてこちらを見据えた。

「昔の話を掘り返すな。あれはただの大人達の戯れだとお前もわかっているだろう。それにお前は今や義弟の婚約相手だ」

「そうでございますわね。今は……そうでございますわ」

動揺した素振りも見せないグイードにアマルダは床に向かって呟くと、一瞬息を詰めて小さくため息をつく。そして気を取り直したようについと顔を上げると私を手で指し示した。

「私、そちらの方と少しお話したいのですがよろしいですわよね?」

「話だと?」

知り合いか、と尋ねるような視線を感じる。それはどちらかと言えばこちらのセリフなのだけど。

私は強い目でグイードの瞳を見つめ返した。

「……私も、話したいことがあるので。いいですか?」

私とアマルダ、2人の間に流れる不穏な空気を感じているのだろう。逡巡するように数秒たっぷりと悩んだ後、グイードは結局首を縦に振った。
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