転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
◇◇

あの、エスメラルダ殿下のバラ園で。

テーブルを間に挟んだ私たちは椅子に座り目の前にティーカップが置いてあるにもかかわらず、いつどちらが飛び掛ってもおかしくないような殺伐とした空気を醸し出しながら睨み合っていた。

先に口を開いたのは私だった。

「……あなたは、フォン殿下の婚約相手だっていう公爵の娘だったのね。あの時も今も、エスメラルダ殿下のバラ園を私的に使えるのは……」

アマルダはカップを手に取ると優雅にお茶を啜った。こつん、とソーサーの上にそれを戻して、ゆっくりこちらへ顔を戻したと思うと────淡く紅の引かれた唇を縦に割いた。

可愛らしい口から飛び出したのは、あはははははっ、と心の底から可笑しそうな笑い声。

「な、何がおかしいの!」

「何が、ですって?」

がたっと立ち上がった私に、アマルダは涙の滲んだ目元を拭って嗤った。

「全てですわ。一番最初にぶつかった時から、私は貴女のことを知っていましたのよ。それなのに貴女は間抜けな顔をして私に手を差し伸べるじゃない?少し愛想を振り撒けばころっと騙されるし、あんまり腹が立つからわざわざエスメラルダ殿下のバラ園にまで案内させてヒントまであげたのに、一向に気づく気配もないんですもの。挙句の果てには私の怪我なんて治して、馬鹿なんじゃありませんの?
揺さぶりをかけてみれば何も知らないみたいでしたし、呆れを通り越して憐れになりましたわ」

はっ、と令嬢にあるまじき仕草で嘲笑する。

「貴女の様子から察するに、私の存在すら聞いていなかったようですわね。許嫁がいたことも秘密にされていたなんて、可哀想だわ」

アマルダは私を怒らせようとしたのだろう。でも私は、その煽るような口ぶりで確信を抱いてしまった。

苦虫を噛み潰したような気分になりながら、ぽつりと呟く。

「可哀想なのはあなたでしょ。それを気にしているのはあなたの方じゃないの?」

「……なにを……」

初めて狼狽したアマルダを見て、私は一度きつく目をつぶった。これから私が言うことはあまりにも残酷だとわかっていた。

それでも言わないわけにはいかなかった。ここで私たちは決着をつけなければいけないとお互いに思っているのがひしひしと伝わってきたから。
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