転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
ずいと顔を近づけた私にたじろいで、一拍遅れてそれに気がついたアマルダがプライドを傷つけられたような顔をした。取り繕うように声を荒らげる。

「あなたに……何がわかるのかしら!平民は身軽でいいわよね!」

「そうかもね!でもたとえ貴族だったとしても私なら何を捨ててもグイードの隣を選んだ!」

「口だけなら何とでも言えるわよ!」

「本当にそうだし!じゃあ逆に訊くけど、あなたは何が捨てられるの?身分は?地位は?血筋は?」

「それは!……それ、は……」

「それにあなたバレンさんまで使って私をグイードから離そうとして!そんな卑怯なことするような人にグイードが心を許すわけがない!あなたはグイードのこと舐めすぎ。あの人は誰よりも周りの人の心の機微に敏感なんだってば。そんなことも気づかないで何年もそばにいたの?」

ぐっ、とアマルダは言葉に詰まった。その碧の瞳にいくつもの感情が過ぎって……駆け引きを放棄したように感情のまま喚き散らし始めた。

「私が、どんなに昔からあの人のことを見ているか知っているの!?」

「知るわけないでしょ!じゃあ私がどれだけあの人のことが好きなのかわかるわけ!?」

「はぁ〜?わかるわけないでしょう!阿呆なの、貴女!」

「阿呆よ!あの面倒臭くて偏屈で意地悪な王子様を何があっても離さないって思うくらいにはね!」

女2人、髪を掴み頬をつねり、ボロボロになりながら取っ組み合う。ドレスの裾が翻り、凄い音を立ててテーブルがひっくり返る。

暫しして騒ぎを聞きつけた衛兵が慌てふためいてやってくると、暴れる私とアマルダを抑え込んだ。

「こ、これは一体何事でございますか……」

困惑顔で惨状を見回す彼らに答えずに、私達はじっとお互いを見つめ合う。

息を荒らげて髪をボサボサに乱しながらも相変わらず気丈に私を睨みつけていたアマルダの瞳が、不意にほんの少し滲んだ。

「……ずるい。私はあんな優しい笑顔、向けられたことなかったわ」

これが彼女の偽りのない本心なのだろう。

もし、今までに一つでもボタンを掛け違えていたら、アマルダのように嘆いていたのは私だったかもしれない。

そう思うととても他人事だとは思えなくて、私は気づけばアマルダを見つめながら語りかけていた。

「私だって最初からそうだったわけじゃない。笑わせようとしたわけじゃない。ただ……誰よりも自分が、いつもあの人の一番近くにいようとしただけ」

アマルダは碧の瞳を瞬かせた。

「だけって……何よ、それ、難しいじゃないの」

彼女は唇を緩めて苦笑して、やっぱり貴女って阿呆ね、と首を振った。
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