転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
◇◇

部屋に戻り着替えて、気持ちを落ち着かせてからグイードの私室に向かうと、肘をついた王子殿下は愉快そうな表情を隠さないまま私に尋ねてきた。

「おい、もう城中で噂になってるぞ。お前は一体今度は何をしでかしたんだ」

「……噂ですか?」

先程のアマルダとの取っ組み合いのことだろう。嫌な予感しかしなかったが先を促す。

「なんでも、見たことのない令嬢が第二王子の婚約相手の公爵令嬢を張り倒したって」

「さすがに張り倒してません!もう、なんで皆面白可笑しくして広めるんですかね……」

このままでは下手すると婚約発表する前に暴力女として認知されてしまうかもしれない。涙目になる私にグイードはくっと笑った。

「まあいいんじゃないのか?お前の身元までは特定されてないみたいだしな。
……それで、本当は何があったんだ?何かされなかったか」

心配そうな声色。本当の話をした方が、今朝こっそりゴミに出したあの茶色い紙袋のこともちゃんと報告した方がいいのかもしれない。

でもアマルダの顔を思い出すとそういう気にもなれず、私は結局「別に、女同士の話し合いですよ」とひとこと告げると笑った。

彼女がグイードに聞かれたくないこともたくさんあるだろうから。

嘘はついていない。ただ、少しばかり大雑把なだけだ。

私が詳しく話さないので不服そうな表情をしているグイードにふと視線を向けた。

「ていうかグイード、私は怒ってるんですよ」

「何をだ?」

「……許嫁。いたなら教えてくれてもいいんじゃないですか」

「いや、もう昔の話だし、わざわざ言うことでもないと思ってな」

グイードの口調には取り繕うような様子も、後暗いことに焦るような様子もない。

わかってる。私自身がアマルダに言ったぐらいだから。

だけど……それでも。

「でも、やっぱり少しショックでしたけど」

唇を尖らせる私の顔を見つめて、グイードはにやっと白い歯を見せた。

「ほう、わかったぞ」

「何がですか……ひゃっ!」

グイードが不機嫌そうなフリをした私の腰をぎゅっと引き寄せた。腹部に鼻が当たって擽ったいやら恥ずかしいやらで声がうわずる。

「お前、怒っているのではなく拗ねてるんだろう」

「拗ねてなんか!」

「いや、わかるぞ。これはやきもちというやつだ」

「……自意識過剰ですよ」

グイードの眉がピクリと動いた。どうやら気に障ったらしい。
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