転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
◇◇

「ん……」

見覚えのない天井。体は不自由無く動く。やっぱりこれは夢じゃないんだ……うわぁ……

上に布団が掛かっていた。わざわざベッドに寝かせてくれたようだ。横にバレンさんが座っていて、こちらを見てほっとした表情を浮かべる。

「あ、気がついた?突然倒れたからびっくりしたよ」

ショック過ぎて現実を受け止められなくて倒れましたなんてとてもじゃないけど言えない。

「ごめんなさい。ありがとうございました……」

起き上がろうとすると肩に手を置かれて止められた。

「いいよ、まだ寝てた方がいい。ところで……マイカってどうしてここに来たの?森にひとりで倒れてたって言うし……」

なんと応えたものか。もう一度日本と言ってもあまり意味は無さそうだし、頭がイカれていると思われる可能性もある。

うーん、ここは記憶喪失ということにしておくのがいい気がしてきた。うん、面倒臭いし、そうしとこう。

「実は、森で目覚めるより前のことをあまり覚えてなくて」

「まさか記憶喪失かな……?困ったね、自分の家もわからないよね……」

バレンさんが黙り込んだ。そして意を決したように私を見つめるとぎゅっと手を握ってきた。

「あの、もしこれから先行く所がないなら、ここで一緒に住まない?僕とユリーナと」

「えっ!?」

「ユリーナも君に懐いているみたいだし、君さえ良ければ僕は全然構わないよ。それに君がこの村に定住してくれたら本当に助かるんだ。この村には薬師も治療師もいなくて」

つまり、働けば住まいが保証されるということか。利害は一致しているし、むしろ申し訳ないくらいである。渡りに船とはこの事だ、と私はこくんと頷いた。

「わかりました、お願いします────」

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