転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
国王、王妃に続いて上座に座る。伏せていた視線を恐る恐る上げると無数の目が自分を見ていた。

金髪碧眼は伯爵や公爵などの上級貴族、それ以外の人々は子爵や男爵、軍事関係者だろう。

皆ほとんどは初めて私を見るはずで、品定めするような視線か、あるいは私の出自を見下すような視線だ。

……あ、これ、怖い。

手が震えるのがわかった。メリアルーラさんもグイードも、こんな視線に晒されてきたのだ。私はわかっているつもりでいただけで……全然わかっていなかったんだと。今更のように気がつく。

今だってほんの一瞬だ。これがずっと続くと考えると気分が悪くなる。

ちらりと横に座るグイードを見る。彼は平然とした顔で皆を見下ろしている。やはり年季も肝の座り方も違うのだなと思う。

私は唇を強く噛み締めると極力誰もいない遠くを見詰めるようにしてその感情をどうにかやり過ごそうとした。

王様が何か喋っている。その声も聞こえなくなる。それどころか、時折どこかから聞こえる囁き声も、靴が床を叩く音も、衣擦れの音も、遠くなって────

「……おい!」

肩を揺すられてハッとした。

「大丈夫か。顔色が悪い。無理なら早めに言え」

グイードが腰を屈めてこちらを覗き込んでいる。私は激しく首を振った。

「大丈夫」

発表が終わったあとは歓談の時間だ。私たちはその間に挨拶回りをすることになっている。これが終われば私たちの出番はおわりだ。ただ挨拶回り形式上のことで、何組かと話せば退場していいことになっている。

そんなこともできないでなにがこの人の花嫁か。私はぐっと足を踏み締めて立ち上がった。

とはいえ、私は最初と最後お辞儀をするだけで基本はグイードが喋ることになる。にこやかに笑みを浮かべながら気難しそうな貴族と話している姿を見ているだけで手持ち無沙汰で、私は一瞬視線を上座に向けた。

国王と王妃であるエスメラルダ殿下が座っていたはずだったが、国王は用事があるのか席を外しているようだ。エスメラルダ殿下は一人背を伸ばして座っている。
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