転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
◇◇

「……舞花」

部屋で侍女の入れてくれたホットミルクを飲んでいた私は名前を呼ばれて振り返った。

「グイード、お帰りなさい。私、先に帰っちゃって本当によかったんですか?」

疲れた顔をした王子は私の隣に座る。

「ああ。でないとお前、あの場で質問攻めにされたと思うぞ。今まではお前の存在自体があまり知られていなかった上に噂なんか眉唾物だと思っている奴らが大半だったが、今日エスメラルダ殿下の怪我を治したのを見て皆事実だと知ってしまったからな……」

あの後、王位の継承も決まったということで、処理は手腕を試すということも含まれグイードの担当となった。処理と言うと聞こえは大仰だが、怪我人はエスメラルダ殿下だけ、しかも綺麗さっぱり治っているというのだから、ほとんどは片付けだ。

唯一最大の問題は、私についてのことだったのだろう。

「どうして、エスメラルダ殿下を助けたんだ。こうなるのはわかっていただろう。皆の前で力を使えば一瞬で疑惑は真実になる。
当然その力に興味を抱く輩だって出てくる。利用しようとする奴もいるだろう。お前自身に降り掛かる火の粉が増えるんだぞ」

「わかってます、けど……あの時、動かないでいるのは無理だったんです。気づいたら動こうとしてる自分に気づいてしまって」

私は深く頭を下げた。

「決してエスメラルダ殿下を赦したとかじゃないです。だけど……」

「それで……“ごめんなさい”、か」

グイードが髪を掻き混ぜた。まだパーティのために綺麗にセットされたままだった髪型がぐしゃぐしゃになる。

「……言い方が悪かった。お前がしたことを咎めるつもりはない。俺が……不安なだけだ」

「不安?」

グイードは一度だけ頷いた。

「俺は、お前の世界にいるのが俺だけであればいいと思う。俺で全部ならいいと思ってしまう。
でもこれから俺が王になって、お前が王妃になったら、もっとお前の世界は広がるんだろう?俺の目が届かないことが増えていくんだろう?手を伸ばせることは減っていくんだろう?
お前が思っている以上に、俺はお前が大切だ。何度も言うようだが、俺はお前だけがいればいいと思っている……誰にも見せずに閉じ込めておきたいくらいだ」
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