転生少女が落ちたのは、意地悪王子の腕の中~不器用な溺愛は何よりも甘いのです~
「私、フォン殿下との婚約を破棄してきましたの」

何気なく落とされた爆弾に、私は思わず口をあんぐりと開けた。

「……ええ!?どうして、あんなに……」

「私、今までずっと、欲張りすぎて雁字搦めになっていましたのよ。腹立たしいけれど、正直……貴女を見て羨ましいと思ってしまったんですもの」

アマルダはそう言いながら酷く不本意そうに長い髪を後ろに払う。

「それに年下の小娘に言い負かされっぱなしだなんて、レディとして情けないものね」

聞き逃せない単語に私は待ったをかけた。

「待って、アマルダって……何歳?」

「グイードより上とだけ言っておきますわ」

「……ずっと、16とか17かと思ってた……」

「皆そう言うのよ、いい加減聞き飽きましたわね」

そう言ってふんと小さな鼻を鳴らす仕草は、実年齢がわかっていてもとても20歳を越えているようには見えない。

と、その時扉が開く音がした。舞花とアマルダ、2人がそちらを向くと部屋の主は明らかにぎょっとした顔になる。

2人の顔を見比べ、暫しして得心がいったように頷くと神妙な口調で言った。

「頼むから何も壊してくれるなよ」

「違いますよ!別に喧嘩しませんから!」

「……そうなのか」

声色が少し残念そうなのはなぜか是非教えてもらいたい。

「彼女の言う通りですわ、殿下。私、今日はお話に来ただけですの」

「お前たち、何かあったんじゃなかったのか?」

「……雨降って地固まる、的な……?」

首を捻るグイードに私も戸惑い声を返した。その要因であるアマルダはどこ吹く風と聞き流して、グイードに視線を向ける。

「フォン殿下は相変わらずお城に帰られていないのですか?」

「ああ、最後に帰ってきたのはいつだったか思い出せないくらいだな……というか、お前の方が知っているんじゃないのか?」

困惑声で訊ね返す王子に、彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべた。

「私はもうあの人とは何も関わりがなくなりましたの。私は仮にも婚約相手でしたのに、結局数度お会いしたことしか無いのですよ?……あんな男、その辺の下町で荒くれ者にでも絡まれて野垂れ死ねばいいのですわ」

薄々思っていたけれど、このご令嬢は実はかなり気が強くて口が悪いんじゃないだろうか。グイードが目をぱちくりとさせて言葉を失っている。

「さて、そろそろ帰りますわね」

アマルダはそう言って扉へ向かっていく。

そこで一度くるりと振り返り、グイードに微笑みかけた。
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