ただ好きだから
え…分かったって…私どうしたら良いの…?
でもそんな私の願いも惜しく、社長はさっさと寝室から出て行ってしまう。
「え、あ!社長!」
そう呼んだにもかかわらず、もちろん社長は振り返るどころか無視で
「椎名様、昨日のお洋服は汚れていたためクリーニングに出させていただきました。新しいお洋服をご用意しましたのでこちらにお着替え下さい」
東堂さんが持っていた誰もが知っている有名ブランドの紙袋を私に手渡してくる。
「え?いやいや!こんなの受け取れません」
こんな高い服代金払えないし!そもそも今お財布にいくら入っているかも不明だし。
「しかし、社長からですので」
困ったように眉を歪ませると細身のスーツに似合った黒縁メガネをクイッと引き上げる。
「え…でも…」
「その格好のまま帰るつもりか」
グレーのストライプスーツにお洒落なネクタイ、さっきとは違いいつものように丁寧にセットされた髪。ドアに寄りかかりながらいつのまにか着替えたらしい社長。
そして少し切れ長な漆黒の瞳が私を見下ろす。
思わずドキンと胸が高鳴った。
前々から社長がカッコよくて人気なのは分かっていた。私だってカッコいいと思った事もある。
だけど近くでみるとその破壊力は抜群で…思わず心臓の音が誰かに聞かれてしまいそうなほど大きく鳴る。