ただ好きだから
結婚
月曜日に会社に行く頃には、私はすっかりあの事は忘れていて
「椎名、金曜大丈夫だったか?」
午前中の会議が終了後、わざわざ心配して声をかけてくれた大和さんの言葉でやっと思い出した。
「え?」
「偶然接待帰りに通りかかった社長のスーツに吐くとか、本当すごいミラクル起こすからあの時まじ焦った」
そ…そうだった…私とんでもないことにしたのに課のみんなに謝るの忘れてたよ…後でちゃんと謝っとかないと。
「すみません、本当ご迷惑おかけしました」
「社長怒ってなかったか?それにしても潰れた社員をわざわざ車で送ってくれるなんて社長も秘書の東堂さんも優しいよな」
大和さんは社長に憧れているのか、どこか関心したように金曜日の事を思い出しながらにこやかに話す。
優しい…まぁ確かにゲロった私を介抱してくれたのは優しいと思う。
けど、私のイメージしていて社長とは何だかあの時の社長は違くて…イジワルというか俺様というか…皆んなが言うようなクールで素敵な男性って感じではなかったように思う。
だけど社長に憧れてるっぽい大和さんにわざわざそれを言うわけもいかず、ましてや「俺と結婚しろ」なんて言われたと言えるわけもなく…「あの後無事にお家に送ってもらいました」なんて笑いながら言葉を返した。