ただ好きだから
チンっと軽快な音を上げて高層ビルの最上階でエレベーターが停止する。
憧れのお洒落なビルでOLを始めて早三年……
まさか、ここの階に来る日がやってくるなんて…
しかもこんな形で……
長い廊下の一番手前にある部屋、そこには金のプレートで社長室と書かれている。
その目の前でピタリと足を止めると、一度ため息を吐き出した後 意を決して扉をノックした。
少しして中から聞こえてくる足音、それに合わせるようにして大きなとびらが開くと中からは社長秘書の東堂さんが顔を覗かせた。
「椎名さん、お待ちしてました。どうぞ」
相変わらず爽やかな笑顔でそう言った東堂さんは「それでは私はこれで失礼します」と言って、あろう事か私と入れ違いで部屋を出て行く。
え…ちょっと待って。東堂さんが出て行くという事は…
私……
もしかして、社長と二人きりって事…?
「椎名凛津」
低くて落ち着いた低音ボイス
「いつまでそんな所にいるんだ、早く来い」
鋭くどこか色っぽい漆黒の瞳
スタイルの良い足を組みながら座り心地の良さそうな椅子へ背を持たれるその男は、どこか楽しげに口角を上げて笑った。