ただ好きだから
「だから帰ったら家の中が空っぽになっていて、多分家賃払い忘れてたとかなのか…とにかく早く管理会社に連絡とらないといけないんです!呑気にご飯食べてる場合じゃないんです」
慌てるようにして少し早口で社長に今の経緯を説明すると、社長は目を細めゆるりと口角を上げて笑うと
「あぁ、その事なら安心しろ。お前の荷物はそこの部屋にある」
……え?そこの部屋にある?
そうやって社長に指さされたのは廊下へと繋がる扉の先。
「どういう事ですか?」
「お前は今日からここに住むんだ。だから荷物はすでに運んでおいた」
……え?ここに住む?
「本気ですか?私と社長が一緒に住むんですか?」
「さっき言っただろ。やるなら徹底的にって」
それは有無を言わさぬそんな雰囲気で、というか私に選ぶ権利なんてないのだけれど。
「社長って…見かけによらずワガママなんですね…」
そんな言葉が口から漏れたにもかかわらず、社長は楽しそうに笑うとテーブルに置かれていたグラスに口を付けた。