ただ好きだから



「だから帰ったら家の中が空っぽになっていて、多分家賃払い忘れてたとかなのか…とにかく早く管理会社に連絡とらないといけないんです!呑気にご飯食べてる場合じゃないんです」



慌てるようにして少し早口で社長に今の経緯を説明すると、社長は目を細めゆるりと口角を上げて笑うと



「あぁ、その事なら安心しろ。お前の荷物はそこの部屋にある」



……え?そこの部屋にある?


そうやって社長に指さされたのは廊下へと繋がる扉の先。



「どういう事ですか?」



「お前は今日からここに住むんだ。だから荷物はすでに運んでおいた」




……え?ここに住む?



「本気ですか?私と社長が一緒に住むんですか?」



「さっき言っただろ。やるなら徹底的にって」




それは有無を言わさぬそんな雰囲気で、というか私に選ぶ権利なんてないのだけれど。



「社長って…見かけによらずワガママなんですね…」



そんな言葉が口から漏れたにもかかわらず、社長は楽しそうに笑うとテーブルに置かれていたグラスに口を付けた。




< 35 / 66 >

この作品をシェア

pagetop