ただ好きだから
一番遠かったたずの存在が、今はこんなにも近くにいる。
しかもそれは想像もしていなかったような展開で訪れて、そしてしだいに私を染めていく。
「部屋はリビングの隣を使え。必要な物があれば東堂に言えば良い。料理や家事はする必要ない、毎日ハウスキーパーが来る事になってるからな」
「ハウスキーパー?そんな勿体無い事してるんですか?」
「仕方ないだろ、いつもはこんな時間に家にいない」
「え?そうなんですか、何時に帰宅してるんですか?」
「日付が変わる前に終われば良い方だ」
社長ってそんなに帰るの遅いんだ…忙しそうな人だとは思ってたけど、そこまでとは。
「なら今日は偶然早かったんですね」
サラダにのったトマトを口に運びながらそう言うと、社長は少しだけ目を細め視線をそらすと
「今日はお前と食事を取ろうと思って、一時的に帰ってきただけだ」
「一時的に?じゃあ今から会社にもどるんですか?」
「あぁ」
うそ…その為にわざわざ仕事を中断して帰って来たの…
自分勝手な傲慢な人だと思ってたけど、もしかしたらこんな形でも社長は社長なりに私との関係をきずこうとしてるのかもしれない。
そう思うと、こうやって勝手に一緒に住むことを決められちゃった事も、少しなら許してあげてもいいかななんて気持ちになった。