ただ好きだから



社長はどうして私を選んだんだろうか。
まぁ確かに私がスーツを汚してしまった事がキッカケだったとしても、きっと社長の婚約者役をしたがる人なんて山ほどいるだろうに。



そんな中で、特に容姿が良いわけでも仕事がバリバリ出来るわけでもない私を選ぶ必要があったんだろうか。



社長の考えが私にはよく分からない…元々何を考えているのか分かりにくい雰囲気の人ではあるけど、やっぱり理解出来ない。



「社長、何時に会社もどるんですか?」



「名前」



「…名前?」



「社長じゃない、名前で呼べ」



「えっと…一条さん…?」



自分がした質問とまるで違う答えが社長から返ってきたあげく、あまりにいきなりの発言に思わずアホみたいな顔で社長に首を傾げてしまう。



「何で苗字なんだよ。下の名前」



し、下の名前って…!社長のことを下の名前で呼べってとこ!?



そんなのさすがに無理なんだけど!!



「もしかして俺の名前知らないのか?」



なかなか答えない私に少し驚いたような顔をしている社長は、信じられないと言いたそうに大きな溜息を吐き出した。



「ちっ違います!知ってますよ!名前」



「なら呼べよ」



突然やってきた意地悪モード。
この前も思ったけど、社長って本当に俺様だ…見た目はこんなにも爽やかでカッコいいのに。
会社では見た事も無いようなイタズラな視線で私を捉えて離してはくれない。


< 37 / 66 >

この作品をシェア

pagetop