ただ好きだから



「えっと…咲夜〔さくや〕さん…」


「さんは要らない、咲夜で良い」



いや、そんな事言われても。いくらなんでもそれは…下の名前で呼ぶだけでも緊張して仕方ないのに、社長の名前を呼び捨てにするなんて。



「凛津、返事は?」



意地悪気な甘い顔でそんな事をサラリと言われ、もちろん拒否をするなんて事出来るわけもなくて…



「はい…」



うつむきながら、赤らむ頬を必死で隠すしか無かった。



なんだかこれって凄い社長の思うツボな気がする…良いように仕向けられてる気がする。



「じゃあ俺はそろそろ社に戻る」



「あ、分かりました。行ってらっしゃい」




食事を食べ終えネクタイを締め直しながら立ち上がった咲夜は、デザートのプリンを頬張っていた私の頭に手をポンっと優しく置くと、くしゃりと頭を撫でて私を見下ろした。



「それと、敬語も禁止な」



男らしく少しゴツゴツとした手、温かくて軽い温もりが頭のてっぺんに残る。



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