ただ好きだから



「椎名、大丈夫か?」


居酒屋を出て少ししたところで、ふらふら気味に歩いている私の顔を覗き込むように一つ上の先輩大和さんが声を掛けてきた。



「あ、はい…何だか今日は酔いが回ったみたいで」


もともとそれほどお酒は強い方では無いけれど、弱くもない。最近疲れていたせいか、歩き出した瞬間やたらと酔いが回ってきて頭がフラつく。



「水買ってきてやるから待ってろ」


「うぅ…すみません…ありがとうございます」



先輩に迷惑かけてしまった…なんて思いながらハンカチを取り出そうと鞄を探るけれど、なかなかそれは見つからなくて



「ねぇ、あれ社長じゃない?」


「え!?あ、本当だ!こっち来る!」



やっとの思いで見つけたハンカチは、酔いが回った手元には収まらずゆっくりと落下していった…


やれやれと思いながらもそれを取ろうと道路を見つめると、ちょうど誰かの革靴の先が視界に入って私のハンカチを踏み付ける。



「あ!」


それに慌ててパッと顔を上げたところで



「うっ」


酔って吐くとはこういう気分なのかと…


とても耐え切れるものじゃないんだと…
この時初めて知った。

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